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Posted by TI-DA at

2007年05月22日

プロローグ

この世に偶然はあるのだろうか。

人生の展開は運命なのか、それとも自らの意思が作り出してきたものなのか。



過ぎ去った日々を想うとき、あらゆる出来事の絶妙なタイミングや、次々と出会う人達との不思議な縁に、人間を超えた何かとてつもなく大きな意思を感じずにはいられない。


ここに紹介する一人の男の運命が、もしあらかじめ定められたものであるならば、あなたの人生もすべて計画されていたことになる。



なぜならひとつの部分が計画通りに進むためには、他のあらゆる要素も決定されていなければならないからだ。



この世は時間という縦糸と、関係という横糸が織り成す巨大なタペストリー(織物)なのだから。










自らの才能に見切りをつけ、アーティスト活動に終止符を打ったAは、その後裏方に回り、レコードプロデューサーに転身していた。

運よくヒット曲にも恵まれ、順風満帆の生活を送っていたが、心の中にはいつも満たされない何かを感じていた。


何かが足りない。


何かが違う。


自分には他に進むべき道があるのではないか。

そんな漠然とした思いが、Aの心に表れては消える日々が続いていた。




そんなある日、仕事の打ち合わせの帰り道、渋谷の歩道橋を上っていると突然意識が遠のき、目の前が真っ白になったかと思うと、後ろ向きにつんのめるようにして、Aの身体は階段から下に転げ落ちていた。



そしてそこから、彼の人生はあらぬ方向に流れ始めていく。







「ウワーーーー」


・・・・・・・・・・



階下に身体が横たわっている

周囲の人たちが近づいてきて人垣ができる



数メートル上から見下ろすもう一人の自分

「あれ?死んじゃったのかな・・・ちっとも痛くない・・・」


次の瞬間、異次元のオーロラのような光に身体が吸い込まれていく

「!!!!」



...........



急に静かになったかと思うと、どこからともなく動物達の集団の足音が鳴り響いてきた


眼下にはアフリカの大平原

キリンや象が群れをなして走っている


あまりに突飛な光景に、我を忘れてその壮大なショーに見入っていると、

再びその身体は7色に輝く光に吸い込まれていった



ヒマラヤの高原地帯が見える


バザーを行きかう人々


なだらかな丘陵


川や岩山や農村地帯や・・・





そしてまた、都会のビルと交通ラッシュ

次々と場面が展開する


「うわーなんだろう。こりゃすごいや!!!」



不思議と恐怖心がない

体も軽くむしろ爽快な気分だ



・・・・・・・



先程までいた都会の雑踏が見える



何一つ変わらぬ街並み

横たわっていた自分の身体が消えている



あれ、僕はどこに行ったんだ・・・?




『イマ ミテキタ スベテガ アナタデスヨ』



「え?だれ?」

「全てが僕って・・・どういうこと?・・・?」



次の瞬間、自分の中からそれまでの自分がガサっと崩れ落ち、残ったからっぽの自分が、空や大地全体に広がって、全てと一体化している



そして地球全体
(地球が自分の顔をしている)



・・・!!!



大きなショックが体中を走る



わ・か・っ・た



そうだったのか!
みんな一つだったんだ!!




僕もあいつも敵も味方も、みんなみんな・・・ひとつだったんだ







本当はみんなで愛しあえるし、みんなで仲良くできるし、みんなで助けあえるんじゃないか


だってみんな同じ一つの命なんだから・・・




なぜこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。




戦争・・・飢餓・・・生存競争・・・裏切り・・・喧嘩・・・憎みあい・・・




いったい僕達人間は何をやってるんだろう



・・・・・・・・・・・・・・



いつかきっとみんなが気づくさ


こんなあたりまえの事にきっと気づくさ



その時すべてが解決するんだ



その時、悠久の昔からの人類の夢がす・・・べ・・・て・・・





急に次元がもどる






病院のベッド


見守る家族


「ああよかった、気がついた!!」

「イタタ・・・」




夢だったんだろうか?


いや夢じゃない


とてもリアルでクリヤーな体験だった




それに今とても楽な気分だ

生まれ変わったような気持ちだ



・・・・・・・・・



医師「レントゲンの結果も異常ないし、打ち所がよかったんですな、この分ならすぐに退院できるでしょう」


家族「本当にありがとうございました」


ホッとしたムードが漂う病室




ベッドに横たわったまま一人ぼんやりと宙を見つめているA



・・・・・・・・・・



今迄俺は何をやってたんだ

何を気張って生きていたんだろう




もう誰かのフリをして格好つけたり、
他人の目を気にして生きたりしなくてすみそうだ



もう背伸びはいらない



お金や物を追いかけても、どこまで行ってもきりがないってこともよくわかったぞ


あれさえ手に入れば、これさえ手に入ればと走り続けてきたけれど、どこまでいってもいつも何かが足りなかったじゃないか



これは外側のものでは埋まらなかったんだ



幸せを「いつか・どこか」に探していたけど

それはいつも「いま・ここ」にあったんだ




この気づきを多くの人たちに伝えなければ・・・

そうすれば世の中は変わる


それが自分の使命のような気がする



でも・・・・



どうやって?


誰に伝えたらいいんだ?




『カ・・ン・・ナ・・ガ・・ラ・・』




あっ・・さっきの声だ

「かんながら?」



・・・・・・・・・・・・



怪我のために今のプロジェクトには復帰できそうにない


次の仕事までは、まだ数週間ある



『しょうがない、しばらくゆっくりするか』



病院の窓の外には青い空・・・雲がゆったりと流れている

あてもなくただ風の吹くままに流れていく白い雲



『そうだ、怪我が治ったら旅にでも出てみよう』




・・・・・・・・・・・・・





平成元年3月

奈良県奥吉野山中



リュックを背負い、杖をつき、頭にバンダナを巻いたAが、緑の山々に囲まれた渓谷を歩いている

空にはトンビがゆうゆうと羽を広げて、まるで時間が止まったかのようだ



農道


篭を背負い畑仕事にむかう村人が二人


A「このあたりに宿はありますか?」

村人「この先に民宿ならあるけんどのお」

A「予定もたてずにふらふらしてるもので」

村人「今は神社の行事もないし、大丈夫じゃろう」

A「どうもありがとうございました」




村人の後ろ姿


「そういやあ、また出たってのお」

「弁天さんの上にけえのお」



A「???」






吉野郡天川村坪内


まだ肌寒い弥生の風にさらされた大銀杏の木

雌雄一体の巨木が、堂々と空に向い縦横無尽に裸の枝を伸ばしている



振り向くとその向かいに光輝く一角が見える



淡い光の中に赤い鳥居、小さな池にかかる赤いたいこ橋

まるで水の中に揺らぐ龍宮城のようだ



何かに引かれるようにフラフラっとその中に入っていく

小高い山の上からトントンと宮大工の鎚の音



社務所の隣の宝物殿の前で足がピタリと止まる



あたりに神秘的な雰囲気が漂っている



体が吸い込まれるような不思議な感覚


その瞬間とてつもなく力強いエネルギーが背骨を螺旋状に駆け昇った



『何だここは!!』




急に背後から声がかかる


「旅のお方かな」


ハっと我にかえり振り向くA



トトロのような宮司がニッコリ笑っている。(天河弁財天社宮司 柿坂神酒之祐)

「ご本殿は今建て変え中じゃ。御神体は今はこの宝物殿の中にいらっしゃる」



「ここは何ですか?」

「日本三大弁天の筆頭、天河弁財天社じゃよ」


「てんかわ・・・?」



宮司「吉野熊野本宮にして龍神信仰の地でもあり・・・・ん?・・・・・!!」

じっとAを見つめ何かを感じている様子



A「・・・?」



「・・・ゆっくりして行きなせえ、ゆっくりな。ホッホッホ」




天界の住人のような後ろ姿を見守る


『なんだか不思議な人だな・・』






神社を後にして、また少し歩くと「天の川温泉」の看板

A「(^o^)♪」
 


湯船の中で身体を伸ばす

「ああ"~~~~~~気"持ぢがいい」


浴場の窓のむこうには、山々に囲まれた天川の渓流が大きくカーブを描いている

絵に描いたようなその景観は、都会のあわただしさとは対照的な、時間のない神秘な世界を感じさせてくれた



「なんて綺麗なんだ、こんなところが現実にあるなんて」




湯気の向こうから巨漢が入ってくる


「おお、やっぱりここにいんしゃったか」

ニコニコ笑う宮司



「ああ、さっきの・・・それにしてもここは素晴しい所ですね」


「ホッホッホ、気に入られたかいのお。そりゃあそうじゃろう。実はな、あんたはここに深い縁のある方でな、この夏に神社で240年振りの大きなお祭りがあっての、あんたはそれで呼ばれてきたんじゃ」


『呼ばれた?何言ってんだ、僕はただ偶然に通りかかっただけなのに・・・』



「ワシを手伝どうてくれんかのお」

「今日ですか?いいですよ、急ぐ旅じゃないし。でも僕なにもできないですよ」


「なあにほんの4カ月間じゃて」

「え?4カ月ずっと?・・・え?・・・で、でも・・・急にそんな・・・」


トトロは、ニっと笑うとザバッと湯を後にした。


「????なんなんだ?」

唖然として大きな背中を見送る



今の宮司さん不思議な感じの人だな

今までに会ったことのないタイプだ

あそこまで確信もって言われると説得力あるよな

ここに深い縁がある?・・・本当かよ


しかしそれにしてもここはなんて素敵な所なんだろう

もしかしてこれが神気とか霊気とかいわれるものかな


こんなところに4カ月間もいたら命がリフレッシュするだろうなぁ・・・


本当にいられるもんならいてみたいよ



でもこの先4カ月か・・・

4カ月も東京を留守にしたらきっと仕事もなくなっちゃうし・・・ブツブツブツ・・・





温泉の外

村人たちが噂話しをしている


「めずらしいことがあるもんじゃ、あの宮司が温泉来とった」

「ほんに初めてじゃなかろうか」

「あの一件があって温泉には、よう来んかったもんな」



A「あのぉ、あの一件って?」


「温泉建設の時にやな、この一帯は弁天さんの身体じゃけん観光施設の建設は許さんっての。最後まで反対しとったんじゃ」

「あのガンコな宮司がのお。めずらしいこともあるもんじゃ。年号が平成に変わって、変な光が降りてくるわ、宮司が温泉に来るわ、いったいどうなっちょるんじゃろう」




僕に会うために初めて・・・か・・・



宮司の顔の回想
「あんたはここに深い縁のある方じゃ。ワシを手伝どうてくれんか」





天川の川原


川のほとりにたたずんで、冷たい風を受けながら黙って流れを見つめている



宮司の声・回想
「この夏に神社で240年振りの大きなお祭りがあってのお。あんたはそれで呼ばれてきたんじゃ」


「・・・・・・・」



村人の声・回想
「あのがんこな宮司が、よお温泉に来よったのお・・・」


「・・・・・・・」




ふと何かを決めたように

「よし!」




社務所

「宮司さんおられますか?」

巫女「今しがた山をおりて下界にいかれました。」


「そうですか、それじゃ帰られたらお伝え下さい。4か月分の荷物を取りにいったん帰京しますがまたすぐ戻ると」

そう言って急ぎ足で立ち去る


背後から大声で「あのお、お名前は・・・?ちょっと・・・」



「Aです!さっき温泉で会ったAだと伝えて下さい!」






東京


いろんな関係者に電話で仕事のキャンセルを告げている

「はい、もうしわけありません。また帰ってきたらよろしくお願いします」


関係者「何を無責任な、4ヶ月も待てるわけないでしょ・・・もういいよ、わかった」

ガジャン!



「やれやれ、また怒らせちゃった」




天河神社には東京にない何かがある

物質主義にはまり込んでしまった人間たちに、見えない霊的世界を感じさせてくれる何かの強い力がある



友人「おう。久しぶりじゃない。怪我したんだって?」

A「それがさ、天河ってとこ知ってる?」

友人「はあ?」




誰かに天河の事を伝えたくてしかたがない

天河の地でなら、あの時内側で起きた不思議な体験と、あの気づきをわかってもらえるかもしれない




でもほとんどの人間は興味も示さず、話を聴いてもくれない

それどころか、頭を打っておかしくなったとか、宗教にでもはまったのだろうとか、そんな噂が立ち始めていた





「・・・待てよ!・・・あの人ならもしかして・・・・」




赤坂 
番組制作会社「オンザロード」オフィス


映画監督 龍村仁

テーブルをはさんでA



龍村「約束もなしに急に訪ねてくるからびっくりしたよ」


「実は天河神社っていうところがありまして。」

龍村「??」



A「かくかくしかじか、ペラペラペラ」


秘書「監督、打ち合わせのお時間です」


A「そんでもって、地球はひとつの命で・・・ペラペラペラ」


龍村「ふむふむ」


A「そんでもって、神気と霊気が・・・ペラペラペラ」

龍村「ほお・・・」


秘書「監督、もう出掛けないと遅れてしまいますよ」



A「だからつまるところ、ペラペラペラ」

龍村仁「ふ~ん、それは面白そうだ。近い内に必ず行くよ」




翌日


友人B「今度こういう仕事を頼みたいんだけど・・・」

A「ああ、俺ダメなんだよ。これから4ヶ月間天河って所に・・・」


友人B 「ええっ?!神社の祭りの手伝い?」



A「そんなわけだから。じゃあ俺もう行かなきゃ」







天川村坪内地区 天河神社


A「お世話になります。よろしくお願いします」

宮司「ホッホッホ。必ず来ると思うとりました。さっそくこれに着替えて」



見ると神主の白装束が置いてある

「え?これを着るの?」


まだ肌寒さが残る社務所の奥の間で、みようみまねで装束をつける




宮司「こちらへ」



勺を持って宮司の後に続くA



『って・・・来てみたはいいけど俺・・・こんな格好で何やってんだろう・・・』



初めて我に返り

『何故ここにいるんだ?・・・いったいどうしちゃったんだ?・・・仕事どうしよう・・・』






本殿が造営中のために、宝物殿の中に作られた仮設神殿の前に坐る



宮司「たかまのはらにかむずまります・・・・なんたらかんたら・・・」



あたり一面に朗々とした宮司の声がこだまする




宮司「なんたらかんたら・・・なんたらかんたら・・・・」




そのうち眠くなってコックリッコックリ




・・・時間経過・・・




宮司「・・・・かんながらの道を・・・・」


はっと目が醒める

「今何て言った?・・・たしか、かんながらって・・・」




宮司「あまつかみくにつかみ・・・」






天河の杜を夕闇が包み始め、杉の木立をむささびが腕を広げて飛んでいる




造営中の神殿の磐座(いわくら)の上に、白色に光る謎の球体が人知れず漂っていた事を、Aには気づくすべもなかった。



続きは書籍で


随(かんながら)神


  


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