2007年05月22日
天河の巻
とにもかくにもそんな訳で、その翌日から天河神社での不思議な生活が始まった
毎日不摂生を重ねてきたAにとって、それは心身を鍛え直すまたとない機会になった
神社の朝は早い
朝6時には境内と社務所と神殿の清掃
手が千切れそうな冷たい水で畳に雑巾がけをするところから一日が始まる
重い荷物を運び、大祭案内のDMを折って封に入れ、参詣客を案内し、奉納の神事に参加し、空いた時間には境内を隈なく掃除する
大祭の準備に奔走する宮司に代わって、やることは山のようにある
神社の仕事はそれだけではない
本尊だけではなく枝社末社(神社周辺の神々が奉られた小さなほこら)のお世話も重要な仕事だ
丘の上、小さなほこらの前で地元の老人がお参りしている
Aが周囲を掃除しお供え物をする
「あんたか、新しく来た神主さんは」
「いえ・・僕・・・神主じゃなくて・・・」
その時、ほこらの上の松の小枝がポキっと折れて落ちた
「ほう、聖天(しょうてん)さんも喜んどる」
A「??」
「聖天さんはな、あんたのお願い事を必ず叶えてくれるゾ。いまそう言いおったわい」
A「??」
出会う人は不思議な人ばかり
都会の生活とはまったく違う毎日の中で、時間が飛ぶように過ぎていった
そんなある日・・・
いつものように境内を清掃していると、向こうからニコニコ手を振って近づいてくる人物
龍村「本当に来ちゃったよ」
「わっ、よく来てくれましたね。遠かったでしょ」
その夜、民宿の座卓を挟んで話に花が咲くふたり
龍村「期待どおりのところだったよ」
A (^^)
「僕は取材やロケで世界中をまわっているけど、ここのエネルギーには一種独特のものがあるねぇ」
「そうでしょ?! でもこの事は東京のみんなにはなかなかわかってもらえなくて・・・」
「うん・・・そうだろうなァ」
「そうそう、今こんなことを考えているんだ」
かばんの中からレポート用紙に走り書きされた企画書を取り出すとAに手渡した
そこには地球交響曲<ガイアシンフォニー>というタイトルが書かれている
「ガイアシンフォニー?」
「そう、
これはドキュメント映画で、ここに登場するのは様々な分野の専門家達、
宇宙飛行士や登山家や音楽家や、しかも僕が無理なく自然に出会っていけた人達なんだ
そしてその人達がみんな違う言い方で同じことを言っている
地球はひとつの生命体だって」
『!!!』
『やっぱり僕だけが感じていたことじゃなかった。それを映画で皆に伝えようとしている人もいるのか』
龍村の横顔が、蛍光灯の光に照らされてとてもたくましく見える
「僕とA君は前世で親子だったんだ」
『おお!なんて素敵なファンタジー
しめしめ、龍村さんは僕より一回りも年上だし、そういうことなら甘えちゃうか
お小遣いちょうだい、おとうちゃまなんちゃって』
「・・・・・A君が僕の父親だったんだな、きっと」
(;_;)
【後日談】
その数年後、地球交響曲(ガイアシンフォニー)は映画化され、多くの人たちが見ることになった
またその後、龍村氏はすっかり天河に魅せられ、天河の映像を「天河交響曲」という短編にまとめている
「天河神社の神事だけは、見える世界にカメラを向けているのか、見えない世界に直接カメラを向けているのかわからなくなる
<かんながら>によって執り行われる様々な神事に立会ってみると、見えない世界の中で、その場でたまたまカメラが回っているという感じだった」
龍村仁
その龍村氏の「地球交響曲」に一人の宇宙飛行士が登場する
名前をラッセル・シュワイカートという
・・・・・・・・
彼が月面着陸船のテストを兼ねて宇宙遊泳している時のことだった
彼の宇宙空間での仕事ぶりを宇宙船の中から撮影するはずだったカメラが突然故障し、動かなくなった
撮影担当のマックデビット飛行士は、シュワイカートにそのまま何もせずに5分間待つように言い残して宇宙船の中に消えた
シュワイカートにまったく予期しなかった静寂が訪れた
それまで秒刻みでこなしていた任務が一切なくなってしまったのだ
地上からの交信が途絶えた
真空の宇宙での完全な静寂
彼はゆっくりとあたりを見回した
眼下には真っ青に輝く美しい地球が広がっている
視界をさえぎるものは一切ない

突然シュワイカートの中に何か言葉では言い表すことのできない、熱く激しい奔流のようなものが一気に流れ込んできた
その瞬間、彼の心に、眼下に広がる地球の全ての生命、そして地球そのものへの言い知れぬほどの深い連帯感が生まれた
「いまここにいるのは、<私>であって<私>でなく、すべての生きとし生ける者としての<我々>なんだ
過去の命も未来の命も含んだ<我々>なんだ」
この<私>という個別意識から、<我々>という地球意識への脱皮は、今この地球に住むすべての人々に求められている
【地球(ガイア)のささやき】 龍村仁著(創元社)
天川村 バス亭
「ほんとうにいい所だった、また必ず来るよ
お祭りのときは撮影クルーも連れてくるから」
「はい、お元気で・・・
ここで会えてすごく嬉しかったです」
遠ざかるバスの窓から体を乗り出して大きく手を振る龍村
その姿をいつまでも見送りながら、まだ当分ここに暮らすことになる自分を不思議に感じていた
龍村さんが帰った後も、またいつもの神社生活が始まった・・・・・
夏の大祭は毎年行われているが、今年のそれは遷宮祭と呼ばれる特別なものだった
なにせ240年ぶりに神殿が新しく建て替えられるのだから
古くなった神殿を取り壊す際に、天河社のシンボル「弁才天女像」(60年に一度しかご開帳されない秘仏)を一旦宝物殿に移していたが、大祭当日にはその像を新しい神殿に運び安置たてまつる、それが遷宮祭だ
取り壊しをした時は、大きな白い龍が社のある琵琶山から天に駆け昇るのを見たとか、頻繁にUFOが飛来するようになったとか、にわかに信じられないような話があちこちから聞こえてきたが、Aはそのような話にはあまり興味がなかった
住んでみて知ったのは、天河神社は昔から、霊能者達が導かれるようにして訪れる場所だということだ
それらしき怪しげな(?)人たちを見かけることもしばしばだった
音楽家の細野晴臣氏はそれを「霊能者の六本木」と呼び、自らも何度となく天河社を訪れていた。
そんな影響もあってか、最近ではスピリチュアルな分野に関心の高い若者達も多く訪れるようになっていた
Aが知らなかっただけで、その世界に興味のある者たちの間では、天河社はすでに有名な存在だったのだ
遷宮祭が近づくにつれ、神社にも村にも、なんとも言えぬ緊張感が漂い始めていた
宮大工たちもその緻密な手作業を、朝から晩まで休むことなく続けていた
もう間もなく完成の予定だ
工事中の神殿に近づくと、真新しい吉野ヒノキの香りがあたり一面に広がっていて、Aはその香りがたまらなく好きだった
そんなある日・・・
社務所の奥の間に宮司とA
さまざまな書物が並んでいる
外は雨
水に濡れた天河神社はまた格別に美しい
雨のために参詣客もおらず、庭掃除もできず、久しぶりにゆっくりとした時間が訪れた
宮司は何やら書をしたため、Aは時間をもてあまし、あくびを連発している
「ふあ~ぁ」
宮司はあいかわらず一心不乱に筆を執る
A「宮司さん、宮司さん」
宮司「・・・・・・・・」
「宮司さん」
宮司筆を止め
「なにかな」
「前から聞いてみようと思ってたんですけど、『かんながら』ってなんですか?」
宮司「・・・・・・」
A「・・・・・・!」
しばらく時間が止まる。
宮司「・・・・・・」
A「・・・・・・」
宮司「・・・そのとおり・・・かんながらや」
「(@_@) ありゃ!」
宮司は、はっと何かを思いだして
「おっ、これをあんたにやろう」
棚の上から赤い『巻き物』を取り出してきた
「これを持っていると、なんでも望みがかなうんじゃ」
『またか・・・聖天さんを掃除した時もお爺さんが言ってたっけ。でもこういう形のあるものだったらもしかしたら本当かもしれない。ありがたく頂いておこう』
もし本当だとしたら何が欲しいか考えて見た
階段から落ちた時に感じた、あの宇宙的な気づきを人様に伝える事が、この数ヶ月間の唯一の望みのはずだ
・・・いや・・・はずだった
すこし記憶が薄れると、そんなことより欲しいものが確かにあった
ハワイのプール付の別荘
高級外車
シャンパンと美女に囲まれてデレデレ・・・
なんだ、結局前と同じじゃないか
巻物を開いて一行目を読んでみた
『ワレ弁財天ハ陰陽別ツ前ノ根源ナリ』
「陰陽別ツ前ノ根源・・・?・・・宇宙の根源っていうことか?」
「よくわからないけど、弁財天ってなんだか深い意味があるんだな・・・」
さらに白蛇経のマントラ
ナムビャクダギョー ウガヤジャヤ ギャラベイシン ダラニビンデン ウンソワカ
ながっ
巫女「Aさん、お客さんです」
「え?僕に客?」
榎木孝明(俳優)「こんにちわ、友人からAさんがこちらにいると聞いて、とにかく行きたくなって来ちゃいました」
「やあ、榎木さん、よく来たねぇ」
本当に突然の来客だった
その夜
民宿の部屋
A「天河は初めて?」
榎木「はい、こんなに遠いとは思いませんでした。今日は泊って明日帰ります」
「え?もう明日帰るの。ここはいいところだから、少しでもゆっくりできたらいいね」
「はい・・・」
「そうだ、天河の温泉は入った?気持ちいいお湯だよ」
「・・・・・・・」何か思い詰めた顔
「どうしたの?何だか元気ないね」
「ええ、迷ってるんです。実は最近芝居の仕事がなくて・・・この先どうしようかと・・・」
「そうなの?」
答えようのない話に、あたりさわりのない相槌を打った
「・・・・・・・・」
うつむきかげんの榎木の横顔
端正な顔立ちには、都会人らしくない素朴な雰囲気が漂っている
『何とかしてあげたくても、僕には何も出来ないし・・・』
・・・・・・
『あっそうだ、さっき宮司からもらった巻物、願いが叶うって言ってたっけ』
着物の懐から出そうとするが、宮司の「これを持っているとなんでも望みがかなうんじゃ」を思いだし、惜しいような気がしてまた仕舞いこみ、入れたり出したりを繰り返す
ええい!!
「これ持ってると願いごとがかなうんだって。ハハハ気休めくらいにしかならないと思うけど、これあげるよ」
「いいんですか?」
「いいよ、いいよ(断わってくれたらしまうけど・・・)」
2日後
いつものように忙しい神社の一日
巫女「Aさん、電話です」
「もしもし」
「榎木です」
「あぁ、榎木さん」
「Aさん大変ですよ。今日になって(天河から帰った翌日)、超大作映画の主役が舞い込んできました。『天と地と』という大型時代劇です」
「それはよかった!!」
「Aさんのおかげです。本当にありがとうございました」
「いや、別に僕は何も・・・・・・アッ!!」
瞬間、宮司の言葉を思い出す。
『これを持っているとなんでも望みがかなうんじゃ』
ちょっと声が上ずって
「ハハ、よかった、よかった。よかったね~」
<後日談>
榎木孝明氏はその後、天河そのものを舞台にした角川映画「天河伝説殺人事件」の主役に抜擢される。
さらには龍村監督の「地球交響曲」シリーズのナレーションも務めることになる。
これも単なる偶然なのか、それとも・・・
同じ日の深夜、社務所の奥の間
書庫
同じ巻き物をこっそり探すA
あれこれ書物をひっくり返している
『赤の巻き物って・・・ないなぁ、これもちがうし・・・』
『あ~ぁせっかくのなんでも望みが叶う巻き物・・・あれ一つきりだったのかな』
そこからパサりと下に落ちた古い書物
明治か大正のころの物
幾重にも油紙で包装されている
いかにもいわくがありそうな感じの本だ
なんだろう?
あたりを見回しこっそりとひもとくA
そこにはかなり古い感じの世界地図
が、なにか感じが違う
『世界地図??・・・ん?でもなんだか変だぞ』
よく見ると、ユーラシア大陸が本州、
オーストラリア大陸が四国、
アフリカ大陸が九州、
北アメリカ大陸が北海道、
そして南アメリカ大陸が台湾
『日本が5大大陸のミニチュア??』
『なんだこれは?!』
山や川や半島の記述もある
たとえば本州の中国地方がヨーロッパ、
能登半島がスカンジナビア、
琵琶湖がカスピ海、
富士山がエベレスト、といった具合に奇妙に一致している
『す・・ご・・い・・・・なんだろうこの本は・・・』
『ここは蒸し暑いし、誰もこない涼しいところでゆっくり読みたいな・・・』
『・・・そうだ、あそこなら』
あたりを見回し、本をそっと懐の中にしまい、ひと気のない造営中の新社殿に上がる
磐座を前にしてペンライトを照らしながら本を開く
宿命の日本列島
今の世界大陸ができた時、その雛型として日本列島が作られた。
(古代日本列島は台湾までの5列島を指した)
『宿命の日本列島、日本は世界の雛型なり』
宿命?
『意識変革は日本から始まる』
『日本で起きることが世界で起きる』
さらにその先には驚くべき記述がなされていた
『計画はしゅくしゅくと進行している
すでに他の太陽系惑星の準備は完了し、後は地球を残すのみ
この先、日本国は大きな「みそぎ」を経て、最後に残された第三惑星の次元昇華を先導すべく準備に入る
全ては日の本から始まり、その勢いはまたたくまに地球を覆いつくし、やがては太陽系全体の次元昇華へとつながるご計画』
息を飲み、読みすすめるA
心臓の鼓動がどんどん早くなる
『大いなる世紀が明け、電線が地下に潜る時、
地下に神の経(みち)、通信網が張り巡らされ、
それが地球の神経となり、大地の身体は完成する
さらにその身体に見合う大いなる意識が人々の心に目覚め、
地球神経網を満たし計画は完了する
その実現を促すは、政治家にあらず、
宗教家にあらず、
ひとり一人の意識変革に他ならず
それは小宇宙と大宇宙の融合なり
それは個別意識と地球意識との合体なり』
「!!!」
『時来たればすみやかに、7つの鍵用い人々の心の扉を開けよ
地球の「ヘソ」日本、日本の「ヘソ」天河の地に神の衣替えが起こるとき、東(アズマ)の都より導かれし者、磐座の前にひざまずき、7つ星の使者より、鍵の秘密を手にするぞよ
神の衣替え?
(御神体を守る神殿の建て替えの事?)
東の都?
(東京から来た自分を思いハっとする)
目の前に磐座、ふと見上げると頭上に北斗七星。
あまりの条件の一致に怖くなってしまう。
『まさか、この「導かれし者」って・・・ま、まさか・・・?』
そのとき右前方から人が現われる気配
懐中電灯を手にゆっくりこちらに上がってくる
あわててペンライトを消すA
そして驚愕!!
道がないはずの場所を、光を手に誰かが上がってくる
いや人などいない!!
光だけだ!
驚きに体が凍り付く
光は約3m先に止まり、こちらをじっと見ているような気配
瞬時に様々な可能性を考える
「そうだ、ホタルだ。ホタルに違いない」
このあたりは水もきれいで、蛍の生息には適している
現に先月ころ、多く見かけたじゃないか
きっと季節外れの生き残りだな
やがて、その光が直径1mくらいまでどんどん大きくなる
「ハハハ、大きなホタルだ、きっと」
現実に1mのホタルを想像しもっと怖くなる
初めての物を目にして、その情報を自分の中で処理しきれない時、人はパニックに襲われる
次の瞬間、本能的にその場から逃げ去っていた
一目散に暗い石段を駆け下りるA
社務所に逃げ帰り、ハアハアと大きく息をつきながら、今自分に起きたあまりの出来事を冷静に振り返ってみた
なにか見てはいけないものを見てしまったのかもしれない
この古ぼけた本の内容・・・そして意思を持っているかのような光
もしこの2つに関連があるとしたら、さらに複雑な出来事に立ち会ってしまったことになる
そもそも確かにあの光は、なにかの意思を持っていた
意思を持ってこちらをじっと見ていた
そんなことがあるのか・・・・
・・・・・・・・・
それからというもの、何日経ってもあの光が気になってしかたがない
人を誘っては幾度となく磐座に上がってみたが、それ以来、光が現われることはなかった
まるで一切が幻想だったと言わんばかりに、磐座周辺は何事もなく静まり返っていた
大祭も近づき、神社ではますます忙しい日々が続いていった
時折、強い日差しが天河の杜を照らしつけるようになり、夏が近づいていることを感じさせた
そしてついに一週間にわたる大祭が幕を開けた
ーー大遷宮祭ーー
総勢数十人の神主達(村の氏子が扮していたり応援の神主達だったり)が、ご神体を入れた御輿を守るようにして行列を作っていた
真っ暗な村道を堤灯の明りだけをたよりに行列が神殿へと続く
平安絵巻のような光景だ
その中に神妙な顔をした神主装束のA
草陰では映画カメラが回っている
その傍らに龍村監督
行列はゆっくりと進み、やがて新築されたばかりの総檜造りの神殿に到着する
照明に鮮やかに照らし出された御扉がおごそかに開かれ、そこに秘仏天河弁財天女像が据え置かれる
60年に一度しか開帳されない秘仏が、余すところなくその姿を大衆の前にあらわにした
下から御扉までの階段には、神主が左右2列に連なり、様々なお供え物を手渡しで神殿へと運んでいる
ちょっとした足の動きにも作法があり、見よう見まねで初めての経験に苦戦するA
数百年前にタイムスリップしたかのような錯覚に襲われ、何故自分がいまこのような場所でこのような役目を負っているのか、不思議な感覚に包まれていた
・・・・・・・・・・・
一週間にわたる大祭
このお祭りには様々なイベントが用意されていた
能や狂言の各流派の家元達(人間国宝)がそれぞれに、新しい能舞台で舞の奉納をするという
天河が能の発祥の地だからこそ実現したことらしい
同時に弁財天は音楽の神様でもあり、各ジャンルの音楽家らの奉納演奏も組まれていた
イギリスからは、ニューエイジ音楽の元祖ブライアンイーノ、
演歌界から北島三郎、
長渕剛・喜納昌吉・・・
多くのアーティストたちが自らの意思で参加を決めていた
そんな中で、喜納昌吉の奉納演奏が始まった
琉球の民族衣装が、大和の山奥の神社にもよく合っていた
そしてその奉納演奏の時、起きる事が起きた
それが良かったのか悪かったのかは今もわからない
とにかく、それは起きた
神殿下の仮設舞台
舞台前には大勢の村人や観光客
舞台袖には宮司や神主一同、神妙にならんでいる
宮司は神社で起きることに関して一切の権限を持っていて、それを知る周囲は宮司の一挙手一投足に神経を尖らせながら自らの務めを果たしていた
演奏が始まった
じんじんじんじん・・・・・・
神社には馴染みのない、ロックのリズムがあたりを包み込んだ
しかし・・・・それは驚くほどよく似合った
神々の持つ霊気と彼らの音楽とがひとつに溶け合っていくのを感じた
じんじんじんじん・・・・・・
これはすでに祈りだ
神職はみな、かしこまって静かにその場に鎮座している
Aの身体の中ではリズムに対する強烈な反応が起きていた
指の先から全身に向けて痺れのような電気信号が伝わり、その衝動を抑えるだけでもいっぱいだった。
あいかわらず神主達は、静かにその場に座っている
ほんとうにこれでいいのか・・・
本来祈りとは形ではなく、その場に起きる一体性の中にこそあるんじゃないか
Aの中では、またお得意の反骨精神が駆け巡っていた
しかしいきなり神主が踊り出せば、240年ぶりのお祭りがぶち壊しになってしまうかもしれない
両方の気持ちが渦巻いていた
腹の底から湧き上がってくる衝動はますます強くなる、それとも神官としての立場を全うするか・・・
そしてついに・・・Aの中で何かが切れた
次の瞬間、Aは持っていた酌を放り投げ、舞台に駆け上り、白装束のまま踊り出していた
さらに客席に向かい「イェーイ」とやってしまう
昌吉やメンバー達も一瞬驚いた顔をしたが、演奏はさらにヒートアップしていった
トトロ宮司の顔がこわばり、宮司の横顔を見た他の神主達は、白くひきつり、頬をひくひくさせている
神聖なる奉納神事に気まずいムードが流れる
ところが突然、何を思ったか宮司が舞台に登ってきた
そしてマイクを片手に踊りだし、
「♪アッ天河は、いいところ」
「♪アッ神酒之祐(みきのすけ)、いいおとこ♪」
宮司が踊り出したとたん、その場の緊張は一気にほぐれた
そのうち白装束の神主全員が、宮司に合わせて舞台の下で踊りだしていた
彼らの踊りは真剣そのものだったが、それでも神官全員が踊り出したことで、祭りの意味合いが大きく変わっていた
「終わった・・・僕がここでやることはこれで終わった」
Aはなんとも言えぬ開放感に浸りながら、白装束姿で踊り続けていた
踊りながら、この数ヶ月のことが頭の中を駆け巡っていた
忙しさの中であっという間に過ぎた日々だったが、思えばもう100日以上ここに暮らしていることになる
神秘的な村だった
不思議なこともたくさんあった
最も不思議だったのは、あの古文書の中に書かれていたことと、あまりに多くの偶然の一致と、そのタイミングで現れた謎の光のことだった
「地球の次元昇華」という言葉もやけに気になっていた
あのままあの場所にいたら何かが起きたのか
もしかしたら、ものすごく神聖で貴重な経験ができたのかもしれない
あの場で逃げ出したって事は、まだ自分にはその準備ができていないってことなのだろう
誰かが言っていた、偶然はないって・・・
この先、そういう準備をしていくんだろうか・・・・
とにかく終わった・・・これで神社への務めは全て終わった
その気持ちは、天河に初めて訪れた日に、ここで奉公しようと決めた時と同じくらい、クリアーでさわやかなものだった
今までが、まさにこの瞬間を味わうための日々だったと思えるほど、舞台の上でAはとても神聖な波動に包まれていた
さんざん踊りまくって、久しぶりにさっぱりした表情のA
多くの神主達があつまる社務所には体が向かなかった
いま自分がしたことが、彼らの目にどう映ったのか想像するのもイヤだった
これっきりやめるということを、どう伝えていいかもわからなかった
境内を反対側に通りぬけ、汗まみれの下着を脱ぐために杉の木立の影に入っていく
着替えをしていると杉の大木の向こうからヒソヒソ声が聞こえてくる
どうやら先方はまだこちらに気づいていない
男「で結局、鍵はいくつ?」
女「わかっているのはまだ2つ。でもシャンタンはおおよその見当はついたと言っている」
男「磐座で受け取った7つの鍵・・・不思議な話だな」
A「!!!」
女「そう、3日後に熊野大社でバリ舞踏の公演があるんだけど、そこに現地のシャーマンのクンタもバリ島から同行する。そこで彼から最初の鍵が正式に伝授されるって。そうすればさらにはっきりとわかるはずって」
男「いよいよだな、地球のアセンション(次元昇華)が早まるか、あるいはこのまま破壊に向かうか・・・」
女「人間はそんなにおろかじゃないよ、古文書の予言もうまくいくって・・・」
まちがいない、あのことだ
そうか、すでに鍵とやらは誰かが手にしていたのか
あの時はてっきり自分のことだと思ったけど・・・
(光から逃げたことで責任を感じていたが、少しホっとする)
でもまさかあそこに書かれていたことが本当に起きていたなんて・・・
そもそも鍵ってなんだろう
そしてこの人達は何者なんだ?
あれから何度も読み返してきた古文書の意味が、明かにされるかもしれない
宿命的な日本列島の形と、次元上昇の時の役割と・・・それが7つの鍵によって影響されるのだとしたら、その鍵とはいったい・・・
しかも天河の地で、神社の建て替えの時に何かが起こるという
自分の知らないところで、何かが起きているのだとしたら、ぜひともそのことを知りたいと思った
出て行って彼等と直接話しをしたいものの、盗み聞きをしたような気分できっかけがつかめない
迷いに迷っていたがとりあえず咳払いをしてみる
「コホンッ」
ギクっとばかり慌てる2人
何事もなかったように急ぎ足でその場を去ろうとする
A「ちょっと待って!」
声を聞いてさらに急ぎ足で立ち去る
祭りが終わり人気もまばらな境内にさしかかった所で、彼等に追い付き正面に回る
「あら」
神主装束のAを見てか、少し安心した様子
「さっき舞台で踊っていた神主さんね、何かご用?」
「いや本当は神主なんかじゃないんだけど、まあ成り行きで。それより今『7つの鍵』の話しをしてたよね」
ギクりとする2人
「実は神社にあった古文書を何度も読んだんだ
『天河の地に神の衣替えが起こるとき、東(アズマ)の都より導かれし者、鍵の秘密を手にするものなり』
今話していた7つの鍵ってそのことじゃ?」
2人「・・・・・・・・・・・・・」
A「そのことで聞きたいことがたくさんあるんだ・・・」
2人、何かを確認するように頷きあって
「わかった、ここじゃ何だから後でテントに来て
天川の対岸の岸辺にいくつかテント張ってあるから、そこの一番北側のはずれよ
2つの三角形の模様が描かれているからすぐわかるはず」
同日夜半過ぎ
天川対岸の岸辺
ゴーという川の流れが、あたり一面にこだまする
いくつかのテントから漏れるわずかな光以外は真っ暗で、頭上には満天の星がきらめいている
天川と天の川が一対になって天地を流れているかのようだ
私服に着替えたAが一番奥のテントを見つける
中でも一番大きいやつだ
見ると壁面に大きな上向きの正三角形と下向きの正三角形が頂点を接近させて描かれている
中から数人の声が聞こえる
「こんばんわ」
急に話し声がやんだかと思うと、先ほどの女性がテントの入り口から顔を出しAを招き入れた
中に入ると二人の男が座っている
みんな同じような雰囲気で、東南アジアかインド風のエスニックな衣装を身にまとっていて、ヘンプ素材のネックレスやブレスレットが印象的だ
それぞれが人懐っこい笑顔で席を勧めてくれる
どうやら歓迎されているらしい
入り口を背にして座ると、正面に見知らぬ男性
痩せていて白い髭を喉元までたらした、とても特徴のある初老の男だ
そう、まるでカンフー映画の師範のような・・・
女「こちらはシャンタン。私たちのリーダーよ」
シャンタン「よろしく」とにっこり微笑む
「私は秋山志織、でこっちは・・・」
「さっきはどうも、猪山です、よろしく」
「どうもAです」
何か話さなければと、自分が天河に暮らすことになった経緯を話しだした
本職はレコードプロデューサーであること
初めて訪れた日に、宮司の誘いで奉公を決めたこと
神社の毎日はとても忙しかったこと
たくさんの霊能者を見かけたこと
偶然古文書を手にしたこと
その内容が衝撃的だったこと
シャンタン、静かなゆっくりとした口調で
「その話しは志織から聞いたよ。秘本を読まれたそうだね。そうか、やはり天河にもあったかあれが」
「ええ、偶然見つけたんだけど、あまりの内容にずっと半信半疑で・・・
しかも天河神社の磐座まで出てくるし・・・・・・
(謎の光の話しをしようとしたが荒唐無稽なので打ち消して)・・・
で、あの本はいったい何なんですか?」
シャンタン「あれは大正時代、わが国最大の霊能者と言われた人物が弟子に伝えたことを書き取ったものでね
彼はすでにあの時代に太平洋戦争のことや原爆のことや今の科学文明のことまでも詳しく予言し、そのほとんどを的中させている
我々は霊能力や予言といったオカルト的なことにはあまり興味がなかったんだが、彼の言葉にだけは何か信憑性を感じていてね・・・
紹介が遅れたけど、僕らはオレゴン州にあったアシュラム(修行道場)の仲間で、存在の真理について学んでいるんだ
じつは・・・そんな我々の仲間が一年前に、ここで決定的な体験をしたんだよ」
志織「天河の古い御本殿を壊して建て替えの時、地鎮祭が行われたの
玉鎮めの神事で、磐座付近の地中深くに私たちのマスターが天河神社に贈った珍しい石を埋めたのね
それが縁で弟子の私達がその儀式に参列したんだけど・・・その日の夜に・・・」
シャンタン「仲間の一人でニューヨークから参列していたミュージシャンのボブ・ミラーが、磐座の前で瞑想していたら急に大きな光の玉が現われたそうだ」
「え!?光の玉が」
志織「信じないでしょうけど本当の話しなの」
「いや信じるよ、信じますとも」
シャンタン「その光が少しずつ大きくなっていって、ボブを包みこんだんだ」
志織「その中で彼はとても素晴しい体験をしたの」
「・・・・・・・!」
一年前、昭和63年 3月3日深夜
建て替えのためにさら地になった神社跡
磐座の上に3mにも膨らんだ光の玉が一人の米国人青年を包んでいる
彼は恍惚とした表情でその場にひざまずいている
その中に金色に輝いたサラスバティー(弁財天)が降臨している
東の都より招かれし者よ
あなたは大きな役目を持ってここに導かれてきました
これから伝えるのは日の本に暮らすあなたの同胞達へのメッセージです
彼等民族の使命を成就するために、あなたはこれらのメッセージを彼等に伝えることになります
志織の声「ボブはネイティブ(アメリカ先住民)の血を引くアメリカ人で、彼等と私達は同じ祖先を持っているらしいの」
まもなくこの星はアセンション(次元昇華)の準備に入ります
そしてそれを先導するのが日の本に暮らすこの国の人達です
彼等の多くはまだその役目に気づいていませんが、やがては皆が目覚めていくことでしょう
あなたに宇宙誕生の秘密を教えておきます
もちろんこの表現は比喩ですが、あなた方の次元の言葉で表わすとこうなります
悠久の昔、まだ宇宙全体がたった一つの意識だったころ、全てはただ完璧に安定して存在していました
でもあまりの完璧さに退屈していた大いなる意識に、ある時ちょっとした遊び心が芽生えたのです
もし自分の一部が全体から切り離されているという感覚を持ったとしたら、どんな体験が始まるのだろうと
そしてその事を試そうとした瞬間、今の物質レベルの宇宙が誕生しました。
現象界3次元宇宙です
そして大いなる意識は自らを無数に分割し、それぞれが個別の意識を持った単独の生命体としての活動を始めました
あなたがたの全ては、3次元宇宙が誕生したその時から今までずっと、あらゆる形態を経験しながら、宇宙のいたるところで存在してきているのです
約90万年前、あなた方がオリオンと呼ぶ方角の星団から、数万の魂達が自らの意思でこの星に転生して来ています
ソウル・グループと呼ばれるこの集団は、ひとつの渦巻き状のエネルギーとなってこの地球にやってきました
彼等は元から地球に暮らしていた魂を向上させ、いずれは大いなる意識へと合体させるべく使命を持った虹の戦士達です
ところが何千回もの輪廻転生を繰り返すうちに、彼等の多くは本来の役目を忘れ、権威や快楽といった現象界のイリュージョンに飲み込まれてしまいました
今そんな魂の多くがこの日の本の国に転生してきています
あなた方の時間感覚からすれば気の遠くなるような悠久の時を経て、まさにいまその役目を果たす日がやってきたのです
私は様々なやり方で戦士達を目覚めさせています
病や苦しみ、事故や災難など、彼らにとってはあまりありがたくない方法によって目覚めを促しています
やがて彼等は、この国に暮らす多くの魂の向上に貢献する役目を担っていくでしょう
あなたはそんな虹の戦士達に、さらに多くの魂を導くための『7つの鍵』の存在を伝える使者なのです
その『鍵』のいくつかを手に入れる道標をあなたに伝えておきます
『ひとつ目は衣替えのすぐ後に南の島の兄弟が川下で神々の舞を踊る夜です』
『ふたつ目は龍宮の歌人と海を渡り聖天祭りで流星の主にお会いなさい』
シャンタンの声「この難解な言葉の意味はしばらくして全て解くことができた」
ただし一つだけ守らなければいけない戒律があります
それは、
<この『鍵』のもとに、いかなる組織をも形成しないこと>
シャンタン「スピリチャル体験は極めて個人的な体験であり、特定の集団が教義として固定するのはやめるようにとの忠告だよ」
志織「戒律はたったそれだけだったの。だからとても大切だということね」
シャンタン「これらの知識を別の意図を持った人達に悪用されないためにも、しばらくは秘密裏に事を進めていこうと思っているんだ。すでに我々の周囲にもおかしな動きがあるしね」
「それでさっき逃げようとしたのか」
志織「でもあなたが仲間だってことはすぐにわかったよ」
猪山「匂いでね」
「でもすごい話しだ。この宇宙ができたのは、元々は大いなる意識の遊び心だったって言うの?」
シャンタン「そう、そのことをインドのヒンズー教徒達は、神の戯れ『リーラ』と呼んでいる」
「・・・・・ちょっと質問していいですか?」
シャンタン「うん?」
「今90万年前にオリオンからっていう話しがあったけど、人類が生まれてまだそんなに経っていないはずでしょ。北京原人だって50万年前の・・・」
「現在までに見つけられたものが全てじゃないよ
その頃の遺跡や痕跡のほとんどは海底深く沈んでいるから、今の技術では発掘できないだけさ
人類は何度も、繁栄と破滅を繰り返してきている
いまに歴史が覆るような発見があるだろうね」
「・・・・・」
「そもそも人間が猿の進化形だなんて本気で信じているのかい?
今やダーウィンの進化論そのものが、科学者達の間では信憑性が問われているんだよ」
「進化論が?」
「人間はね、いつの時代もその時代の社会システムを裏付ける思想を必要としてきたんだ
産業革命以前の社会、つまり中世の時代は王侯貴族と農民の違いは絶対的に区別されていた
農民はどんなに頑張っても貴族にはなりえなかったんだ
それを背後から支えていたのが絶対思想で、花は花、馬は馬、人は人といったように、この世には神が定めた絶対的な身分や役割があるっていう、その考え方が絶対思想さ
当時は誰も疑問を持つことなく、それはそれで秩序が保ててうまくいっていたんだよ
ところが産業革命で動力機械が発明され、経済がより複雑化したら、農民や商人が貴族よりも金持ちになったり、影響力を持ち始めたりしたんだ
絶対思想が崩れてしまった
そこで登場したのが進化論さ
努力次第で、より優れた存在に進化していけるという考え方だ
弱肉強食、適者生存、競争社会、といった資本主義原理を進化論が正当化したんだ
産業革命と進化論がほぼ同時代に同じイギリスから生まれたのは偶然じゃないんだよ」
「なるほど・・・でも次元の上昇というのは進化なのでは?」
「そうじゃないよ
存在の元々の形態である、大いなる一つに帰っていくためのプロセスさ
言ってみれば<おかえりなさい>の世界だよ」
シャンタンの話には、確信からくるような力強さがあった
その博識さと冷静な迫力に、Aはすっかり飲み込まれていた
この人は何をやってる人だろう
どんな人生を送れば、こういう人間になるんだろう
それは若干の嫉妬にも似た感情だった
シャンタン「ところでAさんは、心の中で自分と他人を比較したり競争したりすることはある?
どちらが頭がいいとか、どちらが優れているとか・・・」
心を見抜かれたような気がしてドキリとした
「自分の方があの人よりも上だとか下だとか、そういうやつ?」
「そう、その上だの下だのって、何かを基準にしているわけでしょ
人それぞれに独自の物差しがあって、それを持って比べるんだよね
でもその物差しはその人の創作物
自然界に絶対的な物差しなんてない
存在しているものには個性はあるけど優劣なんてないんだよ
赤が青より上とか、黄緑は紫より劣っているなんてことはない
そもそもこの世界のあらゆる出来事や現象はすべて中立であって、いいとか悪いとか、美しいとか醜いとか、比較や判断といったものは全て人間が作り出したものなんだ」
「そういえば僕はよく人と比較してきたな
若いころは年配者を見ると訳もなく自分のほうが勝っていると思っていたし、今は若い人を見ると経験が多い分こちらのほうが上だなんて思っちゃう
結局は自分が勝っちゃうんだけど(笑)
でもなんで人は心の中でそんな競争を繰り返すんだろう」
「そこなんだ、そこには心の深い理由がある
我々は自分が何者なのか、どれくらい偉大な存在なのか忘れてしまったんだよ
だから自分の外側に対象を見つけて、それと比較することで自分の価値や位置を確かめようとするんだ
『あの人はすごい人だけど自分はこの人ほどはひどくない。だから自分は今このくらいの存在だ』ってね」
「僕もそういうのやめようって思ってるんだけど、ついやっちゃう」
「そのゲームは、自分が何者であるかを思い出せば終わる
我々が等しく同じ命に生かされている価値ある存在だということを思い出せばね」
「僕も天河に来る直前にそのことを感じて、気持ちがとても楽になったっけ
おかげで今また思い出せた」
「人がみな自分の偉大さを思い出せれば、劣等感も優越感も消えてなくなって、もっと素晴らしい人間関係が生まれるだろうね
それを可能にするのが『7つの鍵』の存在なんだ」
「!!」
「神社の建て替えが終わったから、鍵は次々と手に入ると思う
すでに1つは熊野大社で渡されることが決まっているんだ
そしてもうひとつはインドでね」
「インド?」
「9月から喜納昌吉のインドツアーが始まるんだけど、
そこで立ちよるプーナという場所で鍵を受け取る手はずになっている」
猪山「オレゴンのアシュラムが閉鎖されてプーナに移ったんだ」
志織「オレゴンで一緒に暮らしていたボブや私達が、天からその役目を仰せつかったって訳ね」
A「???・・・・・・そのボブさんは今回も来ているの?」
志織「彼は私達にメッセージを伝えたことで、自分の役目は終わったって言ってる
これからは日の本の同胞達の出番だって・・・」
急に皆の言葉が途切れて、ふいに沈黙が訪れた。
猪山「ちょっと外の空気でも吸わないか」
テントの外は満天の星が広がっている
すでに他のテントの灯りは消え、みんな眠っているようだ
志織「あ~、いい気持ち」
猪山「本当だ!まるで空が落っこちてきそうだな」
夏の夜空にオリオン座が輝くことはない
都会では決して見ることのできない、おびただしいほどの星達に埋もれるようにして北斗七星がその存在をはっきりと現している
そういえば、あの古文書にあった7つ星からの使者って、北斗七星じゃなくてオリオンのことだったのか
少し遅れてテントから出てきたシャンタンが、心を読み取ったかのように言った
「オリオン星座はインドでは昔からサラスバティーと言われてきたんだ
サラスバティーはオリオンからの使者かも知れない」
そういえばAは子供の頃から不思議な体験を繰り返していた
それは秋から春先にかけて、夜空を見上げれば、そこに必ずオリオン星座があったことだ
最初は偶然だと思っていた
一番目立つ星座だから、たまたまそれが目に付くのだろうくらいに考えていた
ところがそれは大人になってからも変わることなく、海外でも、南半球でも、見上げた位置にさかさまになったオリオン座が輝いていた
考えてみたら、夜空は広い
たまたま見上げたポイントにそれがある確率はそれほど高くない
それが例外なく起きるには何か意味があるのだろうが、そんなことを人に話しても仕方がないと、心のどこかにしまっていた
そんな長年の疑問が解けたような気がした
はるか悠久の昔に、あの方向から地球にやってきたという話は、本当かもしれないと思った
大きく伸びをして、漆黒の闇に満ちた天河の霊気を体いっぱいに吸いながらシャンタンが言った
「ところで僕達は明日から熊野へ向かうんだけど、いっしょに来るかい?」
「奉公はやめたけど、最後の片付けくらいは手伝わなきゃ・・・」
「そうか、でもあなたとはまたすぐに会うような気がするよ」
翌朝
朝もやがかかった天河の杜に、鳥の声がこだましている
私物を取りに社務所を訪れると、参拝に来た喜納昌吉とばったり出会う
A「おはようございます」
喜納「やあ、おはよう、昨日は乗ってたねえ」
「あはは、もうじっとしてらんなくなっちゃって」
「そうだ、今度インドでコンサートツアーやるんだけど、よかったらおいでよ」
「え?・・・・う~ん行きたいなぁ」
もう半年近くも仕事を休んでいるし、神社では無報酬で働いてきたので、今後の仕事のことやお金のことが気になる
「行きたいけど・・・」
喜納昌吉ニコっと笑って
「来たいと思ったら来れるさ」
「・・・・・・・」
240年ぶりの遷宮祭も、ついに幕を閉じる日がやってきた
それは同時にAが天河を離れる日が来た事を意味した
大祭中の人の賑わいが嘘のように静まりかえっている天河神社周辺
参道沿いの各所に立てられた大きな「のぼり」を一本づつ杭からはずしていくAや村人達
村人「急に静かになるのお」
村人B「Aさんともそろそろお別れやなあ」
「ええ、たいへんお世話になりました。貴重な経験でした」
村人「さあ、あと一本で終わりだ」
社務所
荷物をまとめたAがあいさつに来ている
巫女「あらAさん、もう帰りなさる?」
奥からニコニコ笑った宮司が現われる
宮司「あっごくろうさん、ごくろうさん。もう行きますか」
「はい。大変お世話になりました。おかげでとても貴重な体験をさせて頂きました」
巫女「これをお持ち下さい」
神撰と書かれたお茶やその他土産物をどっさりと大きな袋に詰めてくれた
応援に来た神主達へのお礼の品だ
宮司「あっそうじゃ、あんたはこれも持っていきなされ」
瞬間またあの赤い巻き物?!と期待したが
巫女「あっそれは・・・?1」
宮司「いいんじゃ、いいんじゃ。これはな、ごく限られた大切な方達にお配りした御遷宮祭の記念品じゃ」
50cm四方、厚さ10cm程ぼどの立派な桐の箱を開けてみると、中に能装束の錦の生地でできた袱紗(ふくさ)が入っている
A「いいんですか?」
「本当にごくろうじゃった。これからまっすぐ東京へ帰られるのか」
「はい」
「お仕事、頑張りなされや」
「ええ・・・でも・・・・この先自分の人生がどうなっていくのかまったくわかりません」
宮司、真顔で
「それでいい・・・・・・・かんながらやさかい」
「・・・・・・・・!!」
尋ねるまでもなく、なんとなくその言葉の意味が解り始めていた
Aニッコリ笑って元気よく
「はい!!」
帰りの新幹線の中
ぼんやりと窓に頭をつけ、流れる景色を見つめているA
今までいた世界とはあきらかに違う、下界の人間社会を見つめている
『もう以前のようには仕事ないかもしれないな。それに貯金も底をついてきたし・・・』
流れる景色
『かんながら・・・・か』
東京
マンションの自室
ベッドに仰向けに身体を伸ばして
「フーーーッ」とため息をつく
終わってしまえば全ては夢のようだ
留守電のメッセージをかけっぱなしにして、ぼんやりと天井を見ている
『どこいってんのよ。帰ったら連絡してね』
『pu-pu-pu-pu-・・・』
『おい元気か、最近顔見せないじゃない。たまには店にも寄ってくれよ』
『pu-pu-pu-pu-・・・』
『7月の末に帰られると聞きました。お願いしたい仕事がありますのでオフィスに連絡下さい』
なんだ・・・仕事は一本だけか・・・
たまっている郵便物にさっと目を通す
中から「音楽著作権協会・JASRAC」の封筒を見つける
おっ昔書いた曲の印税だ
4~5万でも小遣くらいになるか
中を開けて見る
支払通知書2500‥‥という数字
ラッキー25万!
何もしないで貰うんだからありがたいよな
ふっと何かを感じてあわててもう一度見直す
あれれ、250万だ!!なんでだ!何かの間違いじゃあ?
そうだJASRACには妹が勤めてたっけ
電話して聞いてみよう
JASRACビル
オフィスで電話をとる女性
「もしもし。あっお兄ちゃん」
「いきなりだけどさぁ、印税がたくさん振り込まれてんだけど、何故だか調べてくれないか?」
「ああ、芳本美代子の分じゃない?」
「え?芳本美代子?アイドルの?俺何も書いてないよ」
「知らないの?お兄ちゃんが昔作った曲を、この春にリバイバルしてヒットしたのよ」
「え?!ホント?!」
「これからも続々と振り込まれるはずよ」
「♪(^o^)」
・・・・・・・・・・・
「吉野から帰ってきたのね。いいねえお兄ちゃんは昔から好きなことばかりして」
「ハハハ・・・ほんとラッキーが多いよね」
(妹、周りを気にして小声で)
「私なんかアリさんみたいに毎日せっせと働いて・・お兄ちゃんはキリギリスだよね」
「キリギリスの晩年の世話をした立派なアリさんの話し知ってるかい?」
妹『年老いたアリの自分が年老いたキリギリスの兄を世話している場面を想像する』
「私は立派にならないからね」
「ハハハ・・・冗談冗談。それじゃまたな」
なにはともあれこれで当面の活動費用はできたぞ
あの『7つの鍵』のことも気になるし・・・これはインドに行けっていうことかな?
いや、待てよ・・・
そんなふうに散財するんじゃなくて、ここはひとつじっくりと構えて、仕事の足場固めをしたほうがいいかも・・・
落ち着いてよく考えてみよう・・・
六本木
「マッドキャップ」オフィス
業界関係者「A君、おかえり」
「どうも、電話を頂きまして」
「いやぁ待ってたんだよ。ぜひ頼みたい仕事があってね」
「怪我をしてからずっと仕事してなかったんで、電話もらえて嬉しかったです」
「実はねA君、9月から沖縄の喜納昌吉がインドでコンサートツアーをする事になってね
NHKのディレクターにも取材がてら行ってもらうんだが、A君も同行してもらえないだろうか?」
「!!!」
「昌吉とは古い付き合いでね、よく家にも泊りにくるんだよ
僕の中では何故か昌吉とA君がだぶってね
いや何、今回はコンサートの模様をハンドカメラに収めて報告してくれるだけでいいんだ」
なんてことだ!!夢でも見てるんじゃないだろうか!
これはただの偶然だろうか
それとも何か目に見えない大きな力に動かされているんだろうか
あの不思議な形の日本地図を思い浮かべる
===もしかしたらこの世には偶然なんてないのかもしれない====
業界関係者「どうかしたかい?」
はっと我に返り
「・・・いや!べつに・・・ただ・・・突然だったもので」
「引き受けてくれるかい?」
「もちろん、よろこんでやらせてもらいます」
こうしてまるで何かに押し出されるようにしてインドに向かうことになった
平成元年 夏のことだ
天河の巻 完
インドの巻へ
毎日不摂生を重ねてきたAにとって、それは心身を鍛え直すまたとない機会になった
神社の朝は早い
朝6時には境内と社務所と神殿の清掃
手が千切れそうな冷たい水で畳に雑巾がけをするところから一日が始まる
重い荷物を運び、大祭案内のDMを折って封に入れ、参詣客を案内し、奉納の神事に参加し、空いた時間には境内を隈なく掃除する
大祭の準備に奔走する宮司に代わって、やることは山のようにある
神社の仕事はそれだけではない
本尊だけではなく枝社末社(神社周辺の神々が奉られた小さなほこら)のお世話も重要な仕事だ
丘の上、小さなほこらの前で地元の老人がお参りしている
Aが周囲を掃除しお供え物をする
「あんたか、新しく来た神主さんは」
「いえ・・僕・・・神主じゃなくて・・・」
その時、ほこらの上の松の小枝がポキっと折れて落ちた
「ほう、聖天(しょうてん)さんも喜んどる」
A「??」
「聖天さんはな、あんたのお願い事を必ず叶えてくれるゾ。いまそう言いおったわい」
A「??」
出会う人は不思議な人ばかり
都会の生活とはまったく違う毎日の中で、時間が飛ぶように過ぎていった
そんなある日・・・
いつものように境内を清掃していると、向こうからニコニコ手を振って近づいてくる人物
龍村「本当に来ちゃったよ」
「わっ、よく来てくれましたね。遠かったでしょ」
その夜、民宿の座卓を挟んで話に花が咲くふたり
龍村「期待どおりのところだったよ」
A (^^)
「僕は取材やロケで世界中をまわっているけど、ここのエネルギーには一種独特のものがあるねぇ」
「そうでしょ?! でもこの事は東京のみんなにはなかなかわかってもらえなくて・・・」
「うん・・・そうだろうなァ」
「そうそう、今こんなことを考えているんだ」
かばんの中からレポート用紙に走り書きされた企画書を取り出すとAに手渡した
そこには地球交響曲<ガイアシンフォニー>というタイトルが書かれている
「ガイアシンフォニー?」
「そう、
これはドキュメント映画で、ここに登場するのは様々な分野の専門家達、
宇宙飛行士や登山家や音楽家や、しかも僕が無理なく自然に出会っていけた人達なんだ
そしてその人達がみんな違う言い方で同じことを言っている
地球はひとつの生命体だって」
『!!!』
『やっぱり僕だけが感じていたことじゃなかった。それを映画で皆に伝えようとしている人もいるのか』
龍村の横顔が、蛍光灯の光に照らされてとてもたくましく見える
「僕とA君は前世で親子だったんだ」
『おお!なんて素敵なファンタジー
しめしめ、龍村さんは僕より一回りも年上だし、そういうことなら甘えちゃうか
お小遣いちょうだい、おとうちゃまなんちゃって』
「・・・・・A君が僕の父親だったんだな、きっと」
(;_;)

【後日談】
その数年後、地球交響曲(ガイアシンフォニー)は映画化され、多くの人たちが見ることになった
またその後、龍村氏はすっかり天河に魅せられ、天河の映像を「天河交響曲」という短編にまとめている
「天河神社の神事だけは、見える世界にカメラを向けているのか、見えない世界に直接カメラを向けているのかわからなくなる
<かんながら>によって執り行われる様々な神事に立会ってみると、見えない世界の中で、その場でたまたまカメラが回っているという感じだった」
龍村仁
その龍村氏の「地球交響曲」に一人の宇宙飛行士が登場する
名前をラッセル・シュワイカートという
・・・・・・・・
彼が月面着陸船のテストを兼ねて宇宙遊泳している時のことだった
彼の宇宙空間での仕事ぶりを宇宙船の中から撮影するはずだったカメラが突然故障し、動かなくなった
撮影担当のマックデビット飛行士は、シュワイカートにそのまま何もせずに5分間待つように言い残して宇宙船の中に消えた
シュワイカートにまったく予期しなかった静寂が訪れた
それまで秒刻みでこなしていた任務が一切なくなってしまったのだ
地上からの交信が途絶えた
真空の宇宙での完全な静寂
彼はゆっくりとあたりを見回した
眼下には真っ青に輝く美しい地球が広がっている
視界をさえぎるものは一切ない

突然シュワイカートの中に何か言葉では言い表すことのできない、熱く激しい奔流のようなものが一気に流れ込んできた
その瞬間、彼の心に、眼下に広がる地球の全ての生命、そして地球そのものへの言い知れぬほどの深い連帯感が生まれた
「いまここにいるのは、<私>であって<私>でなく、すべての生きとし生ける者としての<我々>なんだ
過去の命も未来の命も含んだ<我々>なんだ」
この<私>という個別意識から、<我々>という地球意識への脱皮は、今この地球に住むすべての人々に求められている
【地球(ガイア)のささやき】 龍村仁著(創元社)
天川村 バス亭
「ほんとうにいい所だった、また必ず来るよ
お祭りのときは撮影クルーも連れてくるから」
「はい、お元気で・・・
ここで会えてすごく嬉しかったです」
遠ざかるバスの窓から体を乗り出して大きく手を振る龍村
その姿をいつまでも見送りながら、まだ当分ここに暮らすことになる自分を不思議に感じていた
龍村さんが帰った後も、またいつもの神社生活が始まった・・・・・
夏の大祭は毎年行われているが、今年のそれは遷宮祭と呼ばれる特別なものだった
なにせ240年ぶりに神殿が新しく建て替えられるのだから
古くなった神殿を取り壊す際に、天河社のシンボル「弁才天女像」(60年に一度しかご開帳されない秘仏)を一旦宝物殿に移していたが、大祭当日にはその像を新しい神殿に運び安置たてまつる、それが遷宮祭だ
取り壊しをした時は、大きな白い龍が社のある琵琶山から天に駆け昇るのを見たとか、頻繁にUFOが飛来するようになったとか、にわかに信じられないような話があちこちから聞こえてきたが、Aはそのような話にはあまり興味がなかった
住んでみて知ったのは、天河神社は昔から、霊能者達が導かれるようにして訪れる場所だということだ
それらしき怪しげな(?)人たちを見かけることもしばしばだった
音楽家の細野晴臣氏はそれを「霊能者の六本木」と呼び、自らも何度となく天河社を訪れていた。
そんな影響もあってか、最近ではスピリチュアルな分野に関心の高い若者達も多く訪れるようになっていた
Aが知らなかっただけで、その世界に興味のある者たちの間では、天河社はすでに有名な存在だったのだ
遷宮祭が近づくにつれ、神社にも村にも、なんとも言えぬ緊張感が漂い始めていた
宮大工たちもその緻密な手作業を、朝から晩まで休むことなく続けていた
もう間もなく完成の予定だ
工事中の神殿に近づくと、真新しい吉野ヒノキの香りがあたり一面に広がっていて、Aはその香りがたまらなく好きだった
そんなある日・・・
社務所の奥の間に宮司とA
さまざまな書物が並んでいる
外は雨
水に濡れた天河神社はまた格別に美しい
雨のために参詣客もおらず、庭掃除もできず、久しぶりにゆっくりとした時間が訪れた
宮司は何やら書をしたため、Aは時間をもてあまし、あくびを連発している
「ふあ~ぁ」
宮司はあいかわらず一心不乱に筆を執る
A「宮司さん、宮司さん」
宮司「・・・・・・・・」
「宮司さん」
宮司筆を止め
「なにかな」
「前から聞いてみようと思ってたんですけど、『かんながら』ってなんですか?」
宮司「・・・・・・」
A「・・・・・・!」
しばらく時間が止まる。
宮司「・・・・・・」
A「・・・・・・」
宮司「・・・そのとおり・・・かんながらや」
「(@_@) ありゃ!」
宮司は、はっと何かを思いだして
「おっ、これをあんたにやろう」
棚の上から赤い『巻き物』を取り出してきた
「これを持っていると、なんでも望みがかなうんじゃ」
『またか・・・聖天さんを掃除した時もお爺さんが言ってたっけ。でもこういう形のあるものだったらもしかしたら本当かもしれない。ありがたく頂いておこう』
もし本当だとしたら何が欲しいか考えて見た
階段から落ちた時に感じた、あの宇宙的な気づきを人様に伝える事が、この数ヶ月間の唯一の望みのはずだ
・・・いや・・・はずだった
すこし記憶が薄れると、そんなことより欲しいものが確かにあった
ハワイのプール付の別荘
高級外車
シャンパンと美女に囲まれてデレデレ・・・
なんだ、結局前と同じじゃないか
巻物を開いて一行目を読んでみた
『ワレ弁財天ハ陰陽別ツ前ノ根源ナリ』
「陰陽別ツ前ノ根源・・・?・・・宇宙の根源っていうことか?」
「よくわからないけど、弁財天ってなんだか深い意味があるんだな・・・」
さらに白蛇経のマントラ
ナムビャクダギョー ウガヤジャヤ ギャラベイシン ダラニビンデン ウンソワカ
ながっ
巫女「Aさん、お客さんです」
「え?僕に客?」
榎木孝明(俳優)「こんにちわ、友人からAさんがこちらにいると聞いて、とにかく行きたくなって来ちゃいました」
「やあ、榎木さん、よく来たねぇ」
本当に突然の来客だった
その夜
民宿の部屋
A「天河は初めて?」
榎木「はい、こんなに遠いとは思いませんでした。今日は泊って明日帰ります」
「え?もう明日帰るの。ここはいいところだから、少しでもゆっくりできたらいいね」
「はい・・・」
「そうだ、天河の温泉は入った?気持ちいいお湯だよ」
「・・・・・・・」何か思い詰めた顔
「どうしたの?何だか元気ないね」
「ええ、迷ってるんです。実は最近芝居の仕事がなくて・・・この先どうしようかと・・・」
「そうなの?」
答えようのない話に、あたりさわりのない相槌を打った
「・・・・・・・・」
うつむきかげんの榎木の横顔
端正な顔立ちには、都会人らしくない素朴な雰囲気が漂っている
『何とかしてあげたくても、僕には何も出来ないし・・・』
・・・・・・
『あっそうだ、さっき宮司からもらった巻物、願いが叶うって言ってたっけ』
着物の懐から出そうとするが、宮司の「これを持っているとなんでも望みがかなうんじゃ」を思いだし、惜しいような気がしてまた仕舞いこみ、入れたり出したりを繰り返す
ええい!!
「これ持ってると願いごとがかなうんだって。ハハハ気休めくらいにしかならないと思うけど、これあげるよ」
「いいんですか?」
「いいよ、いいよ(断わってくれたらしまうけど・・・)」
2日後
いつものように忙しい神社の一日
巫女「Aさん、電話です」
「もしもし」
「榎木です」
「あぁ、榎木さん」
「Aさん大変ですよ。今日になって(天河から帰った翌日)、超大作映画の主役が舞い込んできました。『天と地と』という大型時代劇です」
「それはよかった!!」
「Aさんのおかげです。本当にありがとうございました」
「いや、別に僕は何も・・・・・・アッ!!」
瞬間、宮司の言葉を思い出す。
『これを持っているとなんでも望みがかなうんじゃ』
ちょっと声が上ずって
「ハハ、よかった、よかった。よかったね~」
<後日談>
榎木孝明氏はその後、天河そのものを舞台にした角川映画「天河伝説殺人事件」の主役に抜擢される。
さらには龍村監督の「地球交響曲」シリーズのナレーションも務めることになる。
これも単なる偶然なのか、それとも・・・
同じ日の深夜、社務所の奥の間
書庫
同じ巻き物をこっそり探すA
あれこれ書物をひっくり返している
『赤の巻き物って・・・ないなぁ、これもちがうし・・・』
『あ~ぁせっかくのなんでも望みが叶う巻き物・・・あれ一つきりだったのかな』
そこからパサりと下に落ちた古い書物
明治か大正のころの物
幾重にも油紙で包装されている
いかにもいわくがありそうな感じの本だ
なんだろう?
あたりを見回しこっそりとひもとくA
そこにはかなり古い感じの世界地図
が、なにか感じが違う
よく見ると、ユーラシア大陸が本州、
オーストラリア大陸が四国、
アフリカ大陸が九州、
北アメリカ大陸が北海道、
そして南アメリカ大陸が台湾
『日本が5大大陸のミニチュア??』
『なんだこれは?!』
山や川や半島の記述もある
たとえば本州の中国地方がヨーロッパ、
能登半島がスカンジナビア、
琵琶湖がカスピ海、
富士山がエベレスト、といった具合に奇妙に一致している
『す・・ご・・い・・・・なんだろうこの本は・・・』
『ここは蒸し暑いし、誰もこない涼しいところでゆっくり読みたいな・・・』
『・・・そうだ、あそこなら』
あたりを見回し、本をそっと懐の中にしまい、ひと気のない造営中の新社殿に上がる
磐座を前にしてペンライトを照らしながら本を開く
宿命の日本列島
今の世界大陸ができた時、その雛型として日本列島が作られた。
(古代日本列島は台湾までの5列島を指した)
『宿命の日本列島、日本は世界の雛型なり』
宿命?
『意識変革は日本から始まる』
『日本で起きることが世界で起きる』
さらにその先には驚くべき記述がなされていた
『計画はしゅくしゅくと進行している
すでに他の太陽系惑星の準備は完了し、後は地球を残すのみ
この先、日本国は大きな「みそぎ」を経て、最後に残された第三惑星の次元昇華を先導すべく準備に入る
全ては日の本から始まり、その勢いはまたたくまに地球を覆いつくし、やがては太陽系全体の次元昇華へとつながるご計画』
息を飲み、読みすすめるA
心臓の鼓動がどんどん早くなる
『大いなる世紀が明け、電線が地下に潜る時、
地下に神の経(みち)、通信網が張り巡らされ、
それが地球の神経となり、大地の身体は完成する
さらにその身体に見合う大いなる意識が人々の心に目覚め、
地球神経網を満たし計画は完了する
その実現を促すは、政治家にあらず、
宗教家にあらず、
ひとり一人の意識変革に他ならず
それは小宇宙と大宇宙の融合なり
それは個別意識と地球意識との合体なり』
「!!!」
『時来たればすみやかに、7つの鍵用い人々の心の扉を開けよ
地球の「ヘソ」日本、日本の「ヘソ」天河の地に神の衣替えが起こるとき、東(アズマ)の都より導かれし者、磐座の前にひざまずき、7つ星の使者より、鍵の秘密を手にするぞよ
神の衣替え?
(御神体を守る神殿の建て替えの事?)
東の都?
(東京から来た自分を思いハっとする)
目の前に磐座、ふと見上げると頭上に北斗七星。
あまりの条件の一致に怖くなってしまう。
『まさか、この「導かれし者」って・・・ま、まさか・・・?』
そのとき右前方から人が現われる気配
懐中電灯を手にゆっくりこちらに上がってくる
あわててペンライトを消すA
そして驚愕!!
道がないはずの場所を、光を手に誰かが上がってくる
いや人などいない!!
光だけだ!
驚きに体が凍り付く
光は約3m先に止まり、こちらをじっと見ているような気配
瞬時に様々な可能性を考える
「そうだ、ホタルだ。ホタルに違いない」
このあたりは水もきれいで、蛍の生息には適している
現に先月ころ、多く見かけたじゃないか
きっと季節外れの生き残りだな
やがて、その光が直径1mくらいまでどんどん大きくなる
「ハハハ、大きなホタルだ、きっと」
現実に1mのホタルを想像しもっと怖くなる
初めての物を目にして、その情報を自分の中で処理しきれない時、人はパニックに襲われる
次の瞬間、本能的にその場から逃げ去っていた
一目散に暗い石段を駆け下りるA
社務所に逃げ帰り、ハアハアと大きく息をつきながら、今自分に起きたあまりの出来事を冷静に振り返ってみた
なにか見てはいけないものを見てしまったのかもしれない
この古ぼけた本の内容・・・そして意思を持っているかのような光
もしこの2つに関連があるとしたら、さらに複雑な出来事に立ち会ってしまったことになる
そもそも確かにあの光は、なにかの意思を持っていた
意思を持ってこちらをじっと見ていた
そんなことがあるのか・・・・
・・・・・・・・・
それからというもの、何日経ってもあの光が気になってしかたがない
人を誘っては幾度となく磐座に上がってみたが、それ以来、光が現われることはなかった
まるで一切が幻想だったと言わんばかりに、磐座周辺は何事もなく静まり返っていた
大祭も近づき、神社ではますます忙しい日々が続いていった
時折、強い日差しが天河の杜を照らしつけるようになり、夏が近づいていることを感じさせた
そしてついに一週間にわたる大祭が幕を開けた
ーー大遷宮祭ーー
総勢数十人の神主達(村の氏子が扮していたり応援の神主達だったり)が、ご神体を入れた御輿を守るようにして行列を作っていた
真っ暗な村道を堤灯の明りだけをたよりに行列が神殿へと続く
平安絵巻のような光景だ
その中に神妙な顔をした神主装束のA
草陰では映画カメラが回っている
その傍らに龍村監督
行列はゆっくりと進み、やがて新築されたばかりの総檜造りの神殿に到着する
照明に鮮やかに照らし出された御扉がおごそかに開かれ、そこに秘仏天河弁財天女像が据え置かれる
60年に一度しか開帳されない秘仏が、余すところなくその姿を大衆の前にあらわにした
下から御扉までの階段には、神主が左右2列に連なり、様々なお供え物を手渡しで神殿へと運んでいる
ちょっとした足の動きにも作法があり、見よう見まねで初めての経験に苦戦するA
数百年前にタイムスリップしたかのような錯覚に襲われ、何故自分がいまこのような場所でこのような役目を負っているのか、不思議な感覚に包まれていた
・・・・・・・・・・・
一週間にわたる大祭
このお祭りには様々なイベントが用意されていた
能や狂言の各流派の家元達(人間国宝)がそれぞれに、新しい能舞台で舞の奉納をするという
天河が能の発祥の地だからこそ実現したことらしい
同時に弁財天は音楽の神様でもあり、各ジャンルの音楽家らの奉納演奏も組まれていた
イギリスからは、ニューエイジ音楽の元祖ブライアンイーノ、
演歌界から北島三郎、
長渕剛・喜納昌吉・・・
多くのアーティストたちが自らの意思で参加を決めていた
そんな中で、喜納昌吉の奉納演奏が始まった
琉球の民族衣装が、大和の山奥の神社にもよく合っていた
そしてその奉納演奏の時、起きる事が起きた
それが良かったのか悪かったのかは今もわからない
とにかく、それは起きた
神殿下の仮設舞台
舞台前には大勢の村人や観光客
舞台袖には宮司や神主一同、神妙にならんでいる
宮司は神社で起きることに関して一切の権限を持っていて、それを知る周囲は宮司の一挙手一投足に神経を尖らせながら自らの務めを果たしていた
演奏が始まった
じんじんじんじん・・・・・・
神社には馴染みのない、ロックのリズムがあたりを包み込んだ
しかし・・・・それは驚くほどよく似合った
神々の持つ霊気と彼らの音楽とがひとつに溶け合っていくのを感じた
じんじんじんじん・・・・・・
これはすでに祈りだ
神職はみな、かしこまって静かにその場に鎮座している
Aの身体の中ではリズムに対する強烈な反応が起きていた
指の先から全身に向けて痺れのような電気信号が伝わり、その衝動を抑えるだけでもいっぱいだった。
あいかわらず神主達は、静かにその場に座っている
ほんとうにこれでいいのか・・・
本来祈りとは形ではなく、その場に起きる一体性の中にこそあるんじゃないか
Aの中では、またお得意の反骨精神が駆け巡っていた
しかしいきなり神主が踊り出せば、240年ぶりのお祭りがぶち壊しになってしまうかもしれない
両方の気持ちが渦巻いていた
腹の底から湧き上がってくる衝動はますます強くなる、それとも神官としての立場を全うするか・・・
そしてついに・・・Aの中で何かが切れた
次の瞬間、Aは持っていた酌を放り投げ、舞台に駆け上り、白装束のまま踊り出していた
さらに客席に向かい「イェーイ」とやってしまう
昌吉やメンバー達も一瞬驚いた顔をしたが、演奏はさらにヒートアップしていった
トトロ宮司の顔がこわばり、宮司の横顔を見た他の神主達は、白くひきつり、頬をひくひくさせている
神聖なる奉納神事に気まずいムードが流れる
ところが突然、何を思ったか宮司が舞台に登ってきた
そしてマイクを片手に踊りだし、
「♪アッ天河は、いいところ」
「♪アッ神酒之祐(みきのすけ)、いいおとこ♪」
宮司が踊り出したとたん、その場の緊張は一気にほぐれた
そのうち白装束の神主全員が、宮司に合わせて舞台の下で踊りだしていた
彼らの踊りは真剣そのものだったが、それでも神官全員が踊り出したことで、祭りの意味合いが大きく変わっていた
「終わった・・・僕がここでやることはこれで終わった」
Aはなんとも言えぬ開放感に浸りながら、白装束姿で踊り続けていた
踊りながら、この数ヶ月のことが頭の中を駆け巡っていた
忙しさの中であっという間に過ぎた日々だったが、思えばもう100日以上ここに暮らしていることになる
神秘的な村だった
不思議なこともたくさんあった
最も不思議だったのは、あの古文書の中に書かれていたことと、あまりに多くの偶然の一致と、そのタイミングで現れた謎の光のことだった
「地球の次元昇華」という言葉もやけに気になっていた
あのままあの場所にいたら何かが起きたのか
もしかしたら、ものすごく神聖で貴重な経験ができたのかもしれない
あの場で逃げ出したって事は、まだ自分にはその準備ができていないってことなのだろう
誰かが言っていた、偶然はないって・・・
この先、そういう準備をしていくんだろうか・・・・
とにかく終わった・・・これで神社への務めは全て終わった
その気持ちは、天河に初めて訪れた日に、ここで奉公しようと決めた時と同じくらい、クリアーでさわやかなものだった
今までが、まさにこの瞬間を味わうための日々だったと思えるほど、舞台の上でAはとても神聖な波動に包まれていた
さんざん踊りまくって、久しぶりにさっぱりした表情のA
多くの神主達があつまる社務所には体が向かなかった
いま自分がしたことが、彼らの目にどう映ったのか想像するのもイヤだった
これっきりやめるということを、どう伝えていいかもわからなかった
境内を反対側に通りぬけ、汗まみれの下着を脱ぐために杉の木立の影に入っていく
着替えをしていると杉の大木の向こうからヒソヒソ声が聞こえてくる
どうやら先方はまだこちらに気づいていない
男「で結局、鍵はいくつ?」
女「わかっているのはまだ2つ。でもシャンタンはおおよその見当はついたと言っている」
男「磐座で受け取った7つの鍵・・・不思議な話だな」
A「!!!」
女「そう、3日後に熊野大社でバリ舞踏の公演があるんだけど、そこに現地のシャーマンのクンタもバリ島から同行する。そこで彼から最初の鍵が正式に伝授されるって。そうすればさらにはっきりとわかるはずって」
男「いよいよだな、地球のアセンション(次元昇華)が早まるか、あるいはこのまま破壊に向かうか・・・」
女「人間はそんなにおろかじゃないよ、古文書の予言もうまくいくって・・・」
まちがいない、あのことだ
そうか、すでに鍵とやらは誰かが手にしていたのか
あの時はてっきり自分のことだと思ったけど・・・
(光から逃げたことで責任を感じていたが、少しホっとする)
でもまさかあそこに書かれていたことが本当に起きていたなんて・・・
そもそも鍵ってなんだろう
そしてこの人達は何者なんだ?
あれから何度も読み返してきた古文書の意味が、明かにされるかもしれない
宿命的な日本列島の形と、次元上昇の時の役割と・・・それが7つの鍵によって影響されるのだとしたら、その鍵とはいったい・・・
しかも天河の地で、神社の建て替えの時に何かが起こるという
自分の知らないところで、何かが起きているのだとしたら、ぜひともそのことを知りたいと思った
出て行って彼等と直接話しをしたいものの、盗み聞きをしたような気分できっかけがつかめない
迷いに迷っていたがとりあえず咳払いをしてみる
「コホンッ」
ギクっとばかり慌てる2人
何事もなかったように急ぎ足でその場を去ろうとする
A「ちょっと待って!」
声を聞いてさらに急ぎ足で立ち去る
祭りが終わり人気もまばらな境内にさしかかった所で、彼等に追い付き正面に回る
「あら」
神主装束のAを見てか、少し安心した様子
「さっき舞台で踊っていた神主さんね、何かご用?」
「いや本当は神主なんかじゃないんだけど、まあ成り行きで。それより今『7つの鍵』の話しをしてたよね」
ギクりとする2人
「実は神社にあった古文書を何度も読んだんだ
『天河の地に神の衣替えが起こるとき、東(アズマ)の都より導かれし者、鍵の秘密を手にするものなり』
今話していた7つの鍵ってそのことじゃ?」
2人「・・・・・・・・・・・・・」
A「そのことで聞きたいことがたくさんあるんだ・・・」
2人、何かを確認するように頷きあって
「わかった、ここじゃ何だから後でテントに来て
天川の対岸の岸辺にいくつかテント張ってあるから、そこの一番北側のはずれよ
2つの三角形の模様が描かれているからすぐわかるはず」
同日夜半過ぎ
天川対岸の岸辺
ゴーという川の流れが、あたり一面にこだまする
いくつかのテントから漏れるわずかな光以外は真っ暗で、頭上には満天の星がきらめいている
天川と天の川が一対になって天地を流れているかのようだ
私服に着替えたAが一番奥のテントを見つける
中でも一番大きいやつだ
見ると壁面に大きな上向きの正三角形と下向きの正三角形が頂点を接近させて描かれている
中から数人の声が聞こえる
「こんばんわ」
急に話し声がやんだかと思うと、先ほどの女性がテントの入り口から顔を出しAを招き入れた
中に入ると二人の男が座っている
みんな同じような雰囲気で、東南アジアかインド風のエスニックな衣装を身にまとっていて、ヘンプ素材のネックレスやブレスレットが印象的だ
それぞれが人懐っこい笑顔で席を勧めてくれる
どうやら歓迎されているらしい
入り口を背にして座ると、正面に見知らぬ男性
痩せていて白い髭を喉元までたらした、とても特徴のある初老の男だ
そう、まるでカンフー映画の師範のような・・・
女「こちらはシャンタン。私たちのリーダーよ」
シャンタン「よろしく」とにっこり微笑む
「私は秋山志織、でこっちは・・・」
「さっきはどうも、猪山です、よろしく」
「どうもAです」
何か話さなければと、自分が天河に暮らすことになった経緯を話しだした
本職はレコードプロデューサーであること
初めて訪れた日に、宮司の誘いで奉公を決めたこと
神社の毎日はとても忙しかったこと
たくさんの霊能者を見かけたこと
偶然古文書を手にしたこと
その内容が衝撃的だったこと
シャンタン、静かなゆっくりとした口調で
「その話しは志織から聞いたよ。秘本を読まれたそうだね。そうか、やはり天河にもあったかあれが」
「ええ、偶然見つけたんだけど、あまりの内容にずっと半信半疑で・・・
しかも天河神社の磐座まで出てくるし・・・・・・
(謎の光の話しをしようとしたが荒唐無稽なので打ち消して)・・・
で、あの本はいったい何なんですか?」
シャンタン「あれは大正時代、わが国最大の霊能者と言われた人物が弟子に伝えたことを書き取ったものでね
彼はすでにあの時代に太平洋戦争のことや原爆のことや今の科学文明のことまでも詳しく予言し、そのほとんどを的中させている
我々は霊能力や予言といったオカルト的なことにはあまり興味がなかったんだが、彼の言葉にだけは何か信憑性を感じていてね・・・
紹介が遅れたけど、僕らはオレゴン州にあったアシュラム(修行道場)の仲間で、存在の真理について学んでいるんだ
じつは・・・そんな我々の仲間が一年前に、ここで決定的な体験をしたんだよ」
志織「天河の古い御本殿を壊して建て替えの時、地鎮祭が行われたの
玉鎮めの神事で、磐座付近の地中深くに私たちのマスターが天河神社に贈った珍しい石を埋めたのね
それが縁で弟子の私達がその儀式に参列したんだけど・・・その日の夜に・・・」
シャンタン「仲間の一人でニューヨークから参列していたミュージシャンのボブ・ミラーが、磐座の前で瞑想していたら急に大きな光の玉が現われたそうだ」
「え!?光の玉が」
志織「信じないでしょうけど本当の話しなの」
「いや信じるよ、信じますとも」
シャンタン「その光が少しずつ大きくなっていって、ボブを包みこんだんだ」
志織「その中で彼はとても素晴しい体験をしたの」
「・・・・・・・!」
一年前、昭和63年 3月3日深夜
建て替えのためにさら地になった神社跡
磐座の上に3mにも膨らんだ光の玉が一人の米国人青年を包んでいる
彼は恍惚とした表情でその場にひざまずいている
その中に金色に輝いたサラスバティー(弁財天)が降臨している
東の都より招かれし者よ
あなたは大きな役目を持ってここに導かれてきました
これから伝えるのは日の本に暮らすあなたの同胞達へのメッセージです
彼等民族の使命を成就するために、あなたはこれらのメッセージを彼等に伝えることになります
志織の声「ボブはネイティブ(アメリカ先住民)の血を引くアメリカ人で、彼等と私達は同じ祖先を持っているらしいの」
まもなくこの星はアセンション(次元昇華)の準備に入ります
そしてそれを先導するのが日の本に暮らすこの国の人達です
彼等の多くはまだその役目に気づいていませんが、やがては皆が目覚めていくことでしょう
あなたに宇宙誕生の秘密を教えておきます
もちろんこの表現は比喩ですが、あなた方の次元の言葉で表わすとこうなります
悠久の昔、まだ宇宙全体がたった一つの意識だったころ、全てはただ完璧に安定して存在していました
でもあまりの完璧さに退屈していた大いなる意識に、ある時ちょっとした遊び心が芽生えたのです
もし自分の一部が全体から切り離されているという感覚を持ったとしたら、どんな体験が始まるのだろうと
そしてその事を試そうとした瞬間、今の物質レベルの宇宙が誕生しました。
現象界3次元宇宙です
そして大いなる意識は自らを無数に分割し、それぞれが個別の意識を持った単独の生命体としての活動を始めました
あなたがたの全ては、3次元宇宙が誕生したその時から今までずっと、あらゆる形態を経験しながら、宇宙のいたるところで存在してきているのです
約90万年前、あなた方がオリオンと呼ぶ方角の星団から、数万の魂達が自らの意思でこの星に転生して来ています
ソウル・グループと呼ばれるこの集団は、ひとつの渦巻き状のエネルギーとなってこの地球にやってきました
彼等は元から地球に暮らしていた魂を向上させ、いずれは大いなる意識へと合体させるべく使命を持った虹の戦士達です
ところが何千回もの輪廻転生を繰り返すうちに、彼等の多くは本来の役目を忘れ、権威や快楽といった現象界のイリュージョンに飲み込まれてしまいました
今そんな魂の多くがこの日の本の国に転生してきています
あなた方の時間感覚からすれば気の遠くなるような悠久の時を経て、まさにいまその役目を果たす日がやってきたのです
私は様々なやり方で戦士達を目覚めさせています
病や苦しみ、事故や災難など、彼らにとってはあまりありがたくない方法によって目覚めを促しています
やがて彼等は、この国に暮らす多くの魂の向上に貢献する役目を担っていくでしょう
あなたはそんな虹の戦士達に、さらに多くの魂を導くための『7つの鍵』の存在を伝える使者なのです
その『鍵』のいくつかを手に入れる道標をあなたに伝えておきます
『ひとつ目は衣替えのすぐ後に南の島の兄弟が川下で神々の舞を踊る夜です』
『ふたつ目は龍宮の歌人と海を渡り聖天祭りで流星の主にお会いなさい』
シャンタンの声「この難解な言葉の意味はしばらくして全て解くことができた」
ただし一つだけ守らなければいけない戒律があります
それは、
<この『鍵』のもとに、いかなる組織をも形成しないこと>
シャンタン「スピリチャル体験は極めて個人的な体験であり、特定の集団が教義として固定するのはやめるようにとの忠告だよ」
志織「戒律はたったそれだけだったの。だからとても大切だということね」
シャンタン「これらの知識を別の意図を持った人達に悪用されないためにも、しばらくは秘密裏に事を進めていこうと思っているんだ。すでに我々の周囲にもおかしな動きがあるしね」
「それでさっき逃げようとしたのか」
志織「でもあなたが仲間だってことはすぐにわかったよ」
猪山「匂いでね」
「でもすごい話しだ。この宇宙ができたのは、元々は大いなる意識の遊び心だったって言うの?」
シャンタン「そう、そのことをインドのヒンズー教徒達は、神の戯れ『リーラ』と呼んでいる」
「・・・・・ちょっと質問していいですか?」
シャンタン「うん?」
「今90万年前にオリオンからっていう話しがあったけど、人類が生まれてまだそんなに経っていないはずでしょ。北京原人だって50万年前の・・・」
「現在までに見つけられたものが全てじゃないよ
その頃の遺跡や痕跡のほとんどは海底深く沈んでいるから、今の技術では発掘できないだけさ
人類は何度も、繁栄と破滅を繰り返してきている
いまに歴史が覆るような発見があるだろうね」
「・・・・・」
「そもそも人間が猿の進化形だなんて本気で信じているのかい?
今やダーウィンの進化論そのものが、科学者達の間では信憑性が問われているんだよ」
「進化論が?」
「人間はね、いつの時代もその時代の社会システムを裏付ける思想を必要としてきたんだ
産業革命以前の社会、つまり中世の時代は王侯貴族と農民の違いは絶対的に区別されていた
農民はどんなに頑張っても貴族にはなりえなかったんだ
それを背後から支えていたのが絶対思想で、花は花、馬は馬、人は人といったように、この世には神が定めた絶対的な身分や役割があるっていう、その考え方が絶対思想さ
当時は誰も疑問を持つことなく、それはそれで秩序が保ててうまくいっていたんだよ
ところが産業革命で動力機械が発明され、経済がより複雑化したら、農民や商人が貴族よりも金持ちになったり、影響力を持ち始めたりしたんだ
絶対思想が崩れてしまった
そこで登場したのが進化論さ
努力次第で、より優れた存在に進化していけるという考え方だ
弱肉強食、適者生存、競争社会、といった資本主義原理を進化論が正当化したんだ
産業革命と進化論がほぼ同時代に同じイギリスから生まれたのは偶然じゃないんだよ」
「なるほど・・・でも次元の上昇というのは進化なのでは?」
「そうじゃないよ
存在の元々の形態である、大いなる一つに帰っていくためのプロセスさ
言ってみれば<おかえりなさい>の世界だよ」
シャンタンの話には、確信からくるような力強さがあった
その博識さと冷静な迫力に、Aはすっかり飲み込まれていた
この人は何をやってる人だろう
どんな人生を送れば、こういう人間になるんだろう
それは若干の嫉妬にも似た感情だった
シャンタン「ところでAさんは、心の中で自分と他人を比較したり競争したりすることはある?
どちらが頭がいいとか、どちらが優れているとか・・・」
心を見抜かれたような気がしてドキリとした
「自分の方があの人よりも上だとか下だとか、そういうやつ?」
「そう、その上だの下だのって、何かを基準にしているわけでしょ
人それぞれに独自の物差しがあって、それを持って比べるんだよね
でもその物差しはその人の創作物
自然界に絶対的な物差しなんてない
存在しているものには個性はあるけど優劣なんてないんだよ
赤が青より上とか、黄緑は紫より劣っているなんてことはない
そもそもこの世界のあらゆる出来事や現象はすべて中立であって、いいとか悪いとか、美しいとか醜いとか、比較や判断といったものは全て人間が作り出したものなんだ」
「そういえば僕はよく人と比較してきたな
若いころは年配者を見ると訳もなく自分のほうが勝っていると思っていたし、今は若い人を見ると経験が多い分こちらのほうが上だなんて思っちゃう
結局は自分が勝っちゃうんだけど(笑)
でもなんで人は心の中でそんな競争を繰り返すんだろう」
「そこなんだ、そこには心の深い理由がある
我々は自分が何者なのか、どれくらい偉大な存在なのか忘れてしまったんだよ
だから自分の外側に対象を見つけて、それと比較することで自分の価値や位置を確かめようとするんだ
『あの人はすごい人だけど自分はこの人ほどはひどくない。だから自分は今このくらいの存在だ』ってね」
「僕もそういうのやめようって思ってるんだけど、ついやっちゃう」
「そのゲームは、自分が何者であるかを思い出せば終わる
我々が等しく同じ命に生かされている価値ある存在だということを思い出せばね」
「僕も天河に来る直前にそのことを感じて、気持ちがとても楽になったっけ
おかげで今また思い出せた」
「人がみな自分の偉大さを思い出せれば、劣等感も優越感も消えてなくなって、もっと素晴らしい人間関係が生まれるだろうね
それを可能にするのが『7つの鍵』の存在なんだ」
「!!」
「神社の建て替えが終わったから、鍵は次々と手に入ると思う
すでに1つは熊野大社で渡されることが決まっているんだ
そしてもうひとつはインドでね」
「インド?」
「9月から喜納昌吉のインドツアーが始まるんだけど、
そこで立ちよるプーナという場所で鍵を受け取る手はずになっている」
猪山「オレゴンのアシュラムが閉鎖されてプーナに移ったんだ」
志織「オレゴンで一緒に暮らしていたボブや私達が、天からその役目を仰せつかったって訳ね」
A「???・・・・・・そのボブさんは今回も来ているの?」
志織「彼は私達にメッセージを伝えたことで、自分の役目は終わったって言ってる
これからは日の本の同胞達の出番だって・・・」
急に皆の言葉が途切れて、ふいに沈黙が訪れた。
猪山「ちょっと外の空気でも吸わないか」
テントの外は満天の星が広がっている
すでに他のテントの灯りは消え、みんな眠っているようだ
志織「あ~、いい気持ち」
猪山「本当だ!まるで空が落っこちてきそうだな」
夏の夜空にオリオン座が輝くことはない
都会では決して見ることのできない、おびただしいほどの星達に埋もれるようにして北斗七星がその存在をはっきりと現している
そういえば、あの古文書にあった7つ星からの使者って、北斗七星じゃなくてオリオンのことだったのか
少し遅れてテントから出てきたシャンタンが、心を読み取ったかのように言った
「オリオン星座はインドでは昔からサラスバティーと言われてきたんだ
サラスバティーはオリオンからの使者かも知れない」
そういえばAは子供の頃から不思議な体験を繰り返していた
それは秋から春先にかけて、夜空を見上げれば、そこに必ずオリオン星座があったことだ
最初は偶然だと思っていた
一番目立つ星座だから、たまたまそれが目に付くのだろうくらいに考えていた
ところがそれは大人になってからも変わることなく、海外でも、南半球でも、見上げた位置にさかさまになったオリオン座が輝いていた
考えてみたら、夜空は広い
たまたま見上げたポイントにそれがある確率はそれほど高くない
それが例外なく起きるには何か意味があるのだろうが、そんなことを人に話しても仕方がないと、心のどこかにしまっていた
そんな長年の疑問が解けたような気がした
はるか悠久の昔に、あの方向から地球にやってきたという話は、本当かもしれないと思った
大きく伸びをして、漆黒の闇に満ちた天河の霊気を体いっぱいに吸いながらシャンタンが言った
「ところで僕達は明日から熊野へ向かうんだけど、いっしょに来るかい?」
「奉公はやめたけど、最後の片付けくらいは手伝わなきゃ・・・」
「そうか、でもあなたとはまたすぐに会うような気がするよ」
翌朝
朝もやがかかった天河の杜に、鳥の声がこだましている
私物を取りに社務所を訪れると、参拝に来た喜納昌吉とばったり出会う
A「おはようございます」
喜納「やあ、おはよう、昨日は乗ってたねえ」
「あはは、もうじっとしてらんなくなっちゃって」
「そうだ、今度インドでコンサートツアーやるんだけど、よかったらおいでよ」
「え?・・・・う~ん行きたいなぁ」
もう半年近くも仕事を休んでいるし、神社では無報酬で働いてきたので、今後の仕事のことやお金のことが気になる
「行きたいけど・・・」
喜納昌吉ニコっと笑って
「来たいと思ったら来れるさ」
「・・・・・・・」
240年ぶりの遷宮祭も、ついに幕を閉じる日がやってきた
それは同時にAが天河を離れる日が来た事を意味した
大祭中の人の賑わいが嘘のように静まりかえっている天河神社周辺
参道沿いの各所に立てられた大きな「のぼり」を一本づつ杭からはずしていくAや村人達
村人「急に静かになるのお」
村人B「Aさんともそろそろお別れやなあ」
「ええ、たいへんお世話になりました。貴重な経験でした」
村人「さあ、あと一本で終わりだ」
社務所
荷物をまとめたAがあいさつに来ている
巫女「あらAさん、もう帰りなさる?」
奥からニコニコ笑った宮司が現われる
宮司「あっごくろうさん、ごくろうさん。もう行きますか」
「はい。大変お世話になりました。おかげでとても貴重な体験をさせて頂きました」
巫女「これをお持ち下さい」
神撰と書かれたお茶やその他土産物をどっさりと大きな袋に詰めてくれた
応援に来た神主達へのお礼の品だ
宮司「あっそうじゃ、あんたはこれも持っていきなされ」
瞬間またあの赤い巻き物?!と期待したが
巫女「あっそれは・・・?1」
宮司「いいんじゃ、いいんじゃ。これはな、ごく限られた大切な方達にお配りした御遷宮祭の記念品じゃ」
50cm四方、厚さ10cm程ぼどの立派な桐の箱を開けてみると、中に能装束の錦の生地でできた袱紗(ふくさ)が入っている
A「いいんですか?」
「本当にごくろうじゃった。これからまっすぐ東京へ帰られるのか」
「はい」
「お仕事、頑張りなされや」
「ええ・・・でも・・・・この先自分の人生がどうなっていくのかまったくわかりません」
宮司、真顔で
「それでいい・・・・・・・かんながらやさかい」
「・・・・・・・・!!」
尋ねるまでもなく、なんとなくその言葉の意味が解り始めていた
Aニッコリ笑って元気よく
「はい!!」
帰りの新幹線の中
ぼんやりと窓に頭をつけ、流れる景色を見つめているA
今までいた世界とはあきらかに違う、下界の人間社会を見つめている
『もう以前のようには仕事ないかもしれないな。それに貯金も底をついてきたし・・・』
流れる景色
『かんながら・・・・か』
東京
マンションの自室
ベッドに仰向けに身体を伸ばして
「フーーーッ」とため息をつく
終わってしまえば全ては夢のようだ
留守電のメッセージをかけっぱなしにして、ぼんやりと天井を見ている
『どこいってんのよ。帰ったら連絡してね』
『pu-pu-pu-pu-・・・』
『おい元気か、最近顔見せないじゃない。たまには店にも寄ってくれよ』
『pu-pu-pu-pu-・・・』
『7月の末に帰られると聞きました。お願いしたい仕事がありますのでオフィスに連絡下さい』
なんだ・・・仕事は一本だけか・・・
たまっている郵便物にさっと目を通す
中から「音楽著作権協会・JASRAC」の封筒を見つける
おっ昔書いた曲の印税だ
4~5万でも小遣くらいになるか
中を開けて見る
支払通知書2500‥‥という数字
ラッキー25万!
何もしないで貰うんだからありがたいよな
ふっと何かを感じてあわててもう一度見直す
あれれ、250万だ!!なんでだ!何かの間違いじゃあ?
そうだJASRACには妹が勤めてたっけ
電話して聞いてみよう
JASRACビル
オフィスで電話をとる女性
「もしもし。あっお兄ちゃん」
「いきなりだけどさぁ、印税がたくさん振り込まれてんだけど、何故だか調べてくれないか?」
「ああ、芳本美代子の分じゃない?」
「え?芳本美代子?アイドルの?俺何も書いてないよ」
「知らないの?お兄ちゃんが昔作った曲を、この春にリバイバルしてヒットしたのよ」
「え?!ホント?!」
「これからも続々と振り込まれるはずよ」
「♪(^o^)」
・・・・・・・・・・・
「吉野から帰ってきたのね。いいねえお兄ちゃんは昔から好きなことばかりして」
「ハハハ・・・ほんとラッキーが多いよね」
(妹、周りを気にして小声で)
「私なんかアリさんみたいに毎日せっせと働いて・・お兄ちゃんはキリギリスだよね」
「キリギリスの晩年の世話をした立派なアリさんの話し知ってるかい?」
妹『年老いたアリの自分が年老いたキリギリスの兄を世話している場面を想像する』
「私は立派にならないからね」
「ハハハ・・・冗談冗談。それじゃまたな」
なにはともあれこれで当面の活動費用はできたぞ
あの『7つの鍵』のことも気になるし・・・これはインドに行けっていうことかな?
いや、待てよ・・・
そんなふうに散財するんじゃなくて、ここはひとつじっくりと構えて、仕事の足場固めをしたほうがいいかも・・・
落ち着いてよく考えてみよう・・・
六本木
「マッドキャップ」オフィス
業界関係者「A君、おかえり」
「どうも、電話を頂きまして」
「いやぁ待ってたんだよ。ぜひ頼みたい仕事があってね」
「怪我をしてからずっと仕事してなかったんで、電話もらえて嬉しかったです」
「実はねA君、9月から沖縄の喜納昌吉がインドでコンサートツアーをする事になってね
NHKのディレクターにも取材がてら行ってもらうんだが、A君も同行してもらえないだろうか?」
「!!!」
「昌吉とは古い付き合いでね、よく家にも泊りにくるんだよ
僕の中では何故か昌吉とA君がだぶってね
いや何、今回はコンサートの模様をハンドカメラに収めて報告してくれるだけでいいんだ」
なんてことだ!!夢でも見てるんじゃないだろうか!
これはただの偶然だろうか
それとも何か目に見えない大きな力に動かされているんだろうか
あの不思議な形の日本地図を思い浮かべる
===もしかしたらこの世には偶然なんてないのかもしれない====
業界関係者「どうかしたかい?」
はっと我に返り
「・・・いや!べつに・・・ただ・・・突然だったもので」
「引き受けてくれるかい?」
「もちろん、よろこんでやらせてもらいます」
こうしてまるで何かに押し出されるようにしてインドに向かうことになった
平成元年 夏のことだ
天河の巻 完
インドの巻へ





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