2007年05月23日
南朝の巻
平成2年9月
一年ぶりに訪れる天河
道行く村人達と次々にあいさつする
村人「いやぁ、久しぶりやのお」
村人B「元気かいのお」
赤い鳥居をくぐり、見慣れた石段を上る
新しくなった神殿前
まだヒノキの香りが漂っている
細かい霧のような粒子があたり一面を包み込んでいる
自分の身体もいっしょに霧となって消えてしまいそうな、天河神社特有の気配だ
誰もいない
静寂をついてAの祝詞が天河の杜にこだまする
4ヶ月間の奉公で覚えた神への挨拶だ
「かけまくもかしこきいざなぎの大神・・・・・・あまつ神、くにつ神、やおよろずの神たちともに聞こしめせと、かしこみかしこみも申す」
御扉が神気に包まれて鎮まりかえっている
両手を合わせてじっと正面を見つめる
「・・・・・・・・・・・」
セミナーに出合ってからというもの、音楽に携わる機会はほとんど無くなっていた
『これでいいのですか・・・僕はこの生き方でいいのですか』
ただただ鎮まるりかえる神殿の御扉
・・・・・・・・・・・・
神殿を後にして、あたりを懐かしそうに散歩するA
樹木に深く覆われた小高い丘の上、聖天さんにもお参りする
「インドでお会いしましたよね・・・」
神社に隣接する緑の芝生に覆われた空き地
立て看板には『南朝 御所跡』とある
小さなほこらに花を手向ける老女
「おいたわしや、おいたわしや・・・」
そんな光景を眺めながら、ポカポカと日の当たる大きな石に仰向けに横になる
雲がゆったりと流れている
そういえば病院の窓から流れ行く雲を見つめて、あんなふうに風の吹くままに生きてみたいと思った事が、旅に出るきっかけだったな
大切な何かに初めて触れた後だった
あれから流れのままに生きてきたような気がする
そして今再び天河の地を訪れた
ここからまた何処に流れて行くのだろう・・・
「あ~、やっぱり天河はいいなぁ」
平らな石の上で伸びをして、身体をいっぱいに伸ばした
爽やかな風が肌を撫でて心地よく通りすぎていく
日々のストレスが、霧のように身体から蒸発していくのがわかった
目を閉じて、ゆっくりと天河の気を吸ってみる
あたり一面に漂う神気の中で余分な力が抜けていき、深い安心感に包まれていった
しだいに夢の中へ・・・・
-------------
-------------
遠くに大きく火の手が上がっている
五重の塔や古都が燃えている
馬にまたがった若武者が二人、火の手を目指して力の限り駆けている
「都が落ちるぞ~~!!」
「急げ!!」
次のシーン
吉野の渓谷を行く、都を逃れた南朝の一行
帝の御輿が見える
次のシーン
天河の南朝御所
錦絵のような紅葉と、簡素ながらも雅な宮廷風景
さらに
吉野山中、金輪王寺で息を引き取る後醍醐天皇
従者達が泣き崩れる中に燐とした若き皇子
皇子『諸行無常・・・人の世も栄華も全ては一時のもの。この世にあって変わらぬものはあるのだろうか。生涯をかけてもそれを探し求めてみたい』
門の外
従者「お待ちください!!」
皇子は数人の家来を従えて旅に出ていく
船に乗り元の国(中国)に渡っていく
いくつもの山寺を渡り歩く
禅道場での坐禅修行
春夏秋冬..季節はめぐり、ただその中で独り坐り続ける皇子
雨の日も雪の日も、風に花びらが散りゆく日も・・・
難行苦行が続いていく
そして
ある日・・・突然の大悟!!
母国にて仏陀の正法を伝える決意をする
寺の石段の頂上にある山門の前で、老師より一冊の書物を受け取る皇子
<表紙に宝珠を抱いた龍がまさにいま天に昇るかのような絵が描かれている>

山寺を後にする後醍醐帝の皇子
従者と共に船に乗り帰国の途につく
途中、嵐に遭い船が遭難しかかる
身を屈めながら受け取った書物を懐に抱き大切に守る皇子
すると船首に惚然と一人のテングが現われ、嵐の中で航路を指し示す
木の葉のように波に翻弄される船
・・・・・・・・・・・・
やがて嵐はおさまり無事に日本の港にたどり着く
すでにテングの姿はない
日本の街道を行く皇子一行
どこからともなく聞こえる声
『遠江(とうとうみ)の国にて灯を伝え待つ』
『とうとうみ?』
・・・・・・・・・・・・
「Aさん」
・・・・・・・・・・・・
「Aさん!!」
はっとして目を醒ます
シャンタンと志織が笑ってAの寝顔を覗きこんでいる
A「やあ・・・」
石の上で上体を起こす
まだ夢の余韻が覚めやらぬまま、ぼんやりと二人を見つめた
あいかわらず静かな気配のシャンタンと、少し丸みを帯びて女性らしさが増した詩織がいた
あれから一年が経っていた
天川のほとり
玉砂利に坐るシャンタン、志織、A
志織「元気だった?」
「あぁ、それにしても翻訳にずいぶん時間がかかったね。ダルマージも元気かな?」
シャンタン「彼は今年の初めに予告どおりこの世を去ったよ」
「え?・・・・!!」
「我々にとってはこれがダルマージの遺品さ」
ぼろぼろになった古文書と翻訳が書かれたらしいノートを取り出す。
「そうか・・・・亡くなったのか」
志織「墓石には彼の指示により『Never born,Never died.(決して生まれたことも死んだこともない)と刻まれたのよ」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
シャンタンは翻訳ノートをパラパラとめくりながら、
「Aさんは新約聖書を読んだことがある?」
「え?聖書?・・・旅先のホテルに置いてあったものを2~3度。でも真剣に読んだことはないかな」
「新約聖書はマタイ伝、マルコ伝、ルカ伝、ヨハネ伝、といってキリストの4人の弟子がキリストのそばにいて見聞きした話しが中心なんだけど、ダルマージから受け取った『鍵』は、そこには含まれなかった弟子のひとりトマス伝の一部だったんだ」
「トマス?!・・・あの『疑り深きトマス』と言われた・・・?」
「そう。弟子達の多くは農夫や漁夫達でとても無垢な心を持っていたようだけど、トマスはその中にあって比較的インテリで、しかしその分キリストの言葉を鵜呑みにすることはなかったと言われている」
志織「でもだからこそ迷信的な表現を排除して自分が納得した事実だけを伝えているのね。その態度がむしろ現代の私達には信頼できる」
「で、どんなことが書かれていたの」
「教会の存在や、神に祈る行為までも否定するようなキリストの言葉が書かれていた
人間の行為のほとんどは自我から生じていて、たとえそれが美しく見えても何ら徳にはならないという事
おそらくこのような言葉がキリスト教会設立の都合に合わずトマス伝は聖書から抹殺されたんだろうね。
これを暗号にせざるを得なかったことも理解できるよ」
「それが鍵につながるの?」
「その中に一部、あきらかに特別扱いのように書かれた箇所があるんだよ・・・あっここだ
弟子達、イエスに言う
『安らぎはいつ来るのでしょう?天の王国はいつやってくるのでしょう?』
イエス彼等に言う
『あなた方の期待するものはすでに来ている
明日はもはや存在しない
が、あなた方はそれを知らない』」
シャンタン「『あなた方の期待するものはすでに来ている』、これは『時間』についてのイエスの教えなんだ」
「時間について?」
「そう、彼は『時間』や『明日』など存在していないと言っている
過去も未来も頭の中にあるだけで、現実はいつも『いまここ』に存在する
しかもすでに待ち望んだ世界はここに来ている
しかし我々はそれを認めないと・・・」
志織は天川のせせらぎを手のひらでせき止めながら、悪戯っぽく笑った
「私達は時間の中で生きているから、明日になれば明日になればって言うのよね
たくさんの希望や欲望を満たす為には時間という概念が必要なのよ
だから『今満たされている』なんて言われてもね・・・」
シャンタン「今この瞬間を100%幸せとは感じないので、もっと幸せになるには時間が必要だと思うんだね
だから神の王国に『今』すぐ入れと言われても困惑してしまう
こんな罪深い自分が、こんな未熟な自分が神の仲間入りをする資格があるわけがない
だからもっと自分が成長するためにも時間が必要というわけだね」
A「そうか、何となくわかるなぁ
先延ばししたほうが気が楽だし・・・
もしかしたらそうやって人は何千年も延期しているのかな」
志織「でも神の王国はいつも『いまここ』にあるのよね、今までも、今も、これからも
それを100%理解して徹底した時、存在次元が変わるんじゃないかしら」
シャンタン、ノートを見ながら
「そしてこう続けている
イエス言う
『汝自身を愛しなさい』」
志織「自分を愛せなければ人を愛することはできない」
シャンタン「さらに『汝の敵を愛しなさい』」
志織「これは他の福音書にもでてくる有名な言葉ね」
シャンタン「トマス伝はそのことを詳しく述べている
我々の心を幸せにさせない代表的原因に他者に対する『恨みつらみ』があるんだ
相手が大切な人であればあるほど、その感情を持ちやすい
たとえば、両親とか妻とか夫とか・・・
正直に自分を見れば誰もが心の底にその感情を持っているのがわかるはずだよ
それを解決するために相手を責めてみても、無視してみても事態は解決しないし、心も癒されない」
志織「わかっちゃいるんだけど相手を責めちゃうわよね
相手がいかに間違っていたかを気づかせて、相手に罪悪感を与えて反省させれば自分の気持ちが楽になるような気がしてしまう」
シャンタン「でもそれはうまくいったためしがないんだ
そこでイエスのやり方
『汝の敵を愛しなさい』
自分に苦しみを与えたその人に自分の方から近づいていくんだ
そしてその人があなたの愛やエネルギーや援助を受け取れる状態を作ってあげる
簡単に言えば愛して大切にしてあげるんだ
その結果、奇蹟が起きる
いつのまにか、相手に対する恨みつらみが消えているからね
でもそれをするにはまず『汝自身を愛しなさい』
自分を愛して癒さなければならない
まず自分を愛し、次に敵を愛する」
A「難しそうだなあ」
シャンタン「ああ、でもやりがいはあるはずだよ
たとえ相手が受け取らなくても、その気持ちを持ち続けるんだ
するとある時、大きな幸せ感に包まれる瞬間がやってくる
それは天からの恩恵で、それこそが「癒しの波動」といわれている力だよ
その結果、自分の心が満たされるので、自分が幸せになる為に必要だと思っていた時間がいらなくなる
時間を超えて 『今』に帰ってくる事ができるわけだ」
そうか・・・悟るためには欲望をなくせと言うけれど、欲望って未来に向かう力だ
今に十分満足していれば、欲望を持つ余地はない
自分を律して欲望を消滅させるのではなく、幸福感を今手にする事がその道に繋がるのか・・・
そのために必要なのは「愛」なんだ
なんとなくわかってきたぞ・・・
志織「あれさえ手に入れば、これさえ手に入ればと期待して、いつか、いつかと言っていた生き方が変わる
外側のものをいくら集めても内側の空虚感は埋まらないもの・・・」
シャンタン「『いつかどこかで』なんて存在していないよ
現実はいつも『いまここ』にあるのだから」
そうだ、あの時もそれを感じたっけ
過去や未来は頭の中にあるだけで、本当はいつも「今」しかないし、僕らはいつも「今」の中に存在しているんだって・・・
セミナーでも受講生の人たちに、それだけは伝え続けていた
「『時間を超える』、この鍵もとても高度だと思うよ
やっぱり『7つの鍵』は上から順番に見つかっていると思う
これらを自由に使えるための段階も、きっと用意されているはずなんだ」
志織「ねぇ、温泉に入ってから食事っていうコースはどう?」
「いいねえ」
シャンタンも笑って頷いた
天の川温泉
休憩の為の大広間
湯上がりのシャンタンとA
「Aさんにぜひ会いたかったのは3つ目の鍵のこともあったんだよ。ダルマージの話しではあなたがキーマンということだから」
あの日、インドでその話を聞いたときも実感が湧かなかったが、考えれば考えるほど荒唐無稽な話で、それを予兆させるような出来事もいっさいなかった。
「何かの間違いだと思うけど・・・」
志織が濡れた髪をタオルで巻いたまま出てくる
一年前より女性らしく見えるのは恋でもしているのか
そもそもこの二人は恋人同士なのかな
そんなことは考えたこともなかった
いくら鍵のことがあるからって、2人きりでここまで来るなんて、やっぱりただの関係じゃないよな
志織「天河の温泉は最高ね。ねぇシャンタン今思いだしたんだけど、ダルマージが日本に贈った最後のメッセージの話はした?」
「いや、まだだった・・・・去年の暮れの声明なんだ。
ダルマージは、アメリカ支配が創り出した欲望と暴力から人類を解放するのは東洋と西洋が出会う日本の役目だと言っている。そのために必要なのは禅革命だと」
「禅革命?」
志織「皮肉にも日本は世界中で最も社会通念や常識にがんじがらめになっている国で、それが世界をリードする新人間(ニューマン)が生まれる妨げになっているって。
その為には禅が持つパワーを使ってカラを打ち破ることだそうよ」
「本当にそんなことを言っているの?禅も『鍵』のひとつだってこと?」
シャンタン「そしてその声明文の最後に禅の『円相』(太い筆でくるっと円を書いたもの)が書かれていて、そこに『十・十・三』と墨で書かれていた」
志織「彼の声明文としては異例なことで、弟子達も何のことかわからないのよ」
シャンタン「もしかしたらそれが次の鍵のヒントではという人もいるのだけど・・」
天河食堂
窓の外は夕暮れの村景色が広がっている
遊び終えた子供たちの甲高い声が、赤く染まった畑道にこだましている
一番奥のテーブルにあまご(川魚)の甘露煮が配膳された
シャンタン「熊野で我々を見張っていた者達の正体がわかったんだよ」
「本当に?」
志織「ある新興カルト教団だったの。その中の一人が事件を起こしてテレビに顔写真が出てね。いつもシャンタンをつけていたその男だったのよ」
シャンタン「すぐに教団本部に抗議に行ったよ。彼等はしらばっくれていたけど、それ以来尾行がなくなったよ」
志織「おそらくどこかで鍵の情報を知って、自分達の教義に取り入れようとしたのね」
シャンタン「今、日本にはおかしな連中や山師が多くて、本格的に精神のワークをしようとすると世間から誤解されてやりにくい」
志織「これも本物が残っていく試練かもね」
セミナーという存在も、常になにかの宗教ではないかと疑われ続けてきた
本来人間にとって一番大切なことを学ぶ機会が一番いかがわしい物になってしまったとは、なんという皮肉だろう
食事後
神社に向かって薄暗くなった道を歩いている
枝いっぱいに葉をつけた大銀杏の木が、何軒も先の民家の向こうにそびえているのが見える
A「そう言えば例のトマス伝は650年前のものだったんでしょ?」
シャンタン「いや、1800年以上経っているよ」
「でもあのときダルマージが650年の時空を超えて行けって・・・」
志織「いつ?」
「みんなで彼から鍵をもらった時さ」
「そんなこと聞いてないわよ」
シャンタン「いつ言ったの?」
「!!!」
あの時のダルマージの顔を思い出す。
「サファール・アルチャン!」
「行きなさい、650年の時空を超えて」
『あれは僕だけに聞こえたのか?!心に直接??』
すっかり夕闇に包まれた神殿
神前の供え物を下げる撤饌(てっせん)の儀が行われている
「ひーふーみーよーいーむーなーやー こーとーもーちーりーらーねー・・・」
ひふみ祝詞の音霊は、生命の波動そのものを振動させ、永遠なるものと人間とを繋ぐ力を持つという
わずか一年前だというのに、自分も白装束をつけ、この神社でご奉公していた事が夢のように思い出された
撤饌を終えた神主を見送り、まだ真新しいヒノキの香りが漂う能舞台に腰をかけ、ぼんやりと神殿に見入る3人
古文書を盗み見た夜、不思議な光が現れた磐座も、今は何事もなかったかのように静まりかえっている
ここでボブはあの体験をしたのか・・・
『ひとつ目は衣替えのすぐ後に南の島の兄弟が川下で神々の舞を踊る夜です』
『ふたつ目は龍宮の歌人と海を渡り聖天祭りで流星の主にお会いなさい』
志織「やっぱりダルマージが書いた、禅の円相に『十・十・三』って気になるのよね」
シャンタン「これは8年後の平成10年10月3日の事ではないかと思うんだが・・・」
志織「その時に、またここに光が現われるのかしら」
A「ずいぶん先の話しだね」
志織「じゅう・じゅう・さん・・・か・・・」
・・・・・
志織「・・・テン・テン・スリー・・・・ひふみのヤマト言葉では・・・とう・とう・み・・・」
・・・・・・・・・・・
A「!!」
A「今、何って言った?」
志織「え?じゅう・じゅう・さん」
A「その後だよ」
志織「とう・とう・み」
「!!!」
『禅、そして、とうとうみ』
昼間、南朝の御所跡で見た夢を思い出す
...........
皇子の禅修行そして
『遠江(とうとうみ)の国にて灯を伝え待つ』
『とうとうみ?』
・・・・・・・・・・・・
『まさか?』
何かに取りつかれたように急に石段を駆け下り、明りのついた社務所へ転がるように駆けこんだ
「こんばんわ」
社務所を閉めるために後片付けをしていた巫女が、驚いた顔で迎えた
「あらAさん、なんと、お久しぶり!」
「ねえ、あそこに南朝の御所跡があるけど、後醍醐天皇が亡くなったのは何年前?」
「どうしたのいきなり?・・・(Aがあまりに真剣な顔をしているのを見て)ちょっと待ってね調べてみるから」
巫女は棚の上から何やらぶ厚い本を取り出すと、パラパラとページをめくった
そこにシャンタン達がやってくる
志織「どうしたのよ、急に行っちゃうからびっくりするじゃない」
巫女「え~と今が1990年だから、約650年前ね」
「650年!!・・・・・やっぱりそうか。これはもしかすると・・・」
シャンタン「どうしたんだい?」
「もしかしたら、次の鍵が見つかるかもしれない!」
シャンタン・志織「え?!」
「650年とは新しい鍵の事だったんだ」
シャンタン・志織「???」
「遠江(とおとうみ)とは浜名湖一帯の遠州地方のことだよね」
その昔、京の都を基点として、近い湖の琵琶湖周辺を近江、遠い湖の浜名湖周辺を遠江と呼んだ
手帳をめくりながら
「僕は子供のころ浜松にいてね・・・加藤、こいつだ!」
「ちょっと電話借りるね」
「もしもし・・・あっ加藤?」
少し時間経過
「それでね、遠州地方に南朝ゆかりの禅寺か史跡はなかったかと思って」
加藤「あぁ、それなら有名な奥山の方広寺だら」
「方広寺?」
「うん、たしか後醍醐天皇の皇子が建立したって聞いたな」
「それだ!!」
「うわ!びっくりした。どうした?」
「いや、何でもない。行けば場所はわかるかな。俺子供の頃しかいなかったから・・・」
「静岡県でも1、2を争う大きな寺だで、誰に聞いてもすぐわかるら」
「ありがとう」
電話を切って社務所の柱時計を見上げた
「この時間じゃ、もうバスはないか」
志織「あら、私達は車で来てるけど?」
シャンタン「どうやらダルマージが言ったとうり、あなたが次の鍵を見つけてくれたようだね」
「いや、まだ決まったわけじゃ・・・でも何か胸騒ぎがするんだ」
志織「面白そうね。そうと決まったら今から行こうよ、そのほうこうじって所」
深夜、車を飛ばす3人。
運転するシャンタンの隣で、詩織がやけに楽しげにはしゃいでいる。
時折シャンタンを見つめる視線が、何年も一緒に暮らす夫婦のようだ。
この二人の関係はいったいどんなだろう。
恋人同士だろうか・・・それにしては年齢の差があるようにも見えるし・・・
後ろのシートから声をかけた
「二人は付き合っているの?」
「ああ、僕たちはみんな恋人同士さ」
「みんなって?」
「違う言い方をすれば誰一人誰のものでもないんだよ」
志織「あら?Aさんのことも恋人だと思っているけど・・・」
「え?!」
「いやだ、赤くなってる」
シャンタン「僕もAさんを恋人だと思っているよ」
「え?!!」
二人は顔を見合わせて大きな声で笑った
車は名古屋インターを過ぎ、東名高速道路に入っていた
南朝の巻 完
方広寺の巻へ
一年ぶりに訪れる天河
道行く村人達と次々にあいさつする
村人「いやぁ、久しぶりやのお」
村人B「元気かいのお」
赤い鳥居をくぐり、見慣れた石段を上る
新しくなった神殿前
まだヒノキの香りが漂っている
細かい霧のような粒子があたり一面を包み込んでいる
自分の身体もいっしょに霧となって消えてしまいそうな、天河神社特有の気配だ
誰もいない
静寂をついてAの祝詞が天河の杜にこだまする
4ヶ月間の奉公で覚えた神への挨拶だ
「かけまくもかしこきいざなぎの大神・・・・・・あまつ神、くにつ神、やおよろずの神たちともに聞こしめせと、かしこみかしこみも申す」
御扉が神気に包まれて鎮まりかえっている
両手を合わせてじっと正面を見つめる
「・・・・・・・・・・・」
セミナーに出合ってからというもの、音楽に携わる機会はほとんど無くなっていた
『これでいいのですか・・・僕はこの生き方でいいのですか』
ただただ鎮まるりかえる神殿の御扉
・・・・・・・・・・・・
神殿を後にして、あたりを懐かしそうに散歩するA
樹木に深く覆われた小高い丘の上、聖天さんにもお参りする
「インドでお会いしましたよね・・・」
神社に隣接する緑の芝生に覆われた空き地
立て看板には『南朝 御所跡』とある
小さなほこらに花を手向ける老女
「おいたわしや、おいたわしや・・・」
そんな光景を眺めながら、ポカポカと日の当たる大きな石に仰向けに横になる
雲がゆったりと流れている
そういえば病院の窓から流れ行く雲を見つめて、あんなふうに風の吹くままに生きてみたいと思った事が、旅に出るきっかけだったな
大切な何かに初めて触れた後だった
あれから流れのままに生きてきたような気がする
そして今再び天河の地を訪れた
ここからまた何処に流れて行くのだろう・・・
「あ~、やっぱり天河はいいなぁ」
平らな石の上で伸びをして、身体をいっぱいに伸ばした
爽やかな風が肌を撫でて心地よく通りすぎていく
日々のストレスが、霧のように身体から蒸発していくのがわかった
目を閉じて、ゆっくりと天河の気を吸ってみる
あたり一面に漂う神気の中で余分な力が抜けていき、深い安心感に包まれていった
しだいに夢の中へ・・・・
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遠くに大きく火の手が上がっている
五重の塔や古都が燃えている
馬にまたがった若武者が二人、火の手を目指して力の限り駆けている
「都が落ちるぞ~~!!」
「急げ!!」
次のシーン
吉野の渓谷を行く、都を逃れた南朝の一行
帝の御輿が見える
次のシーン
天河の南朝御所
錦絵のような紅葉と、簡素ながらも雅な宮廷風景
さらに
吉野山中、金輪王寺で息を引き取る後醍醐天皇
従者達が泣き崩れる中に燐とした若き皇子
皇子『諸行無常・・・人の世も栄華も全ては一時のもの。この世にあって変わらぬものはあるのだろうか。生涯をかけてもそれを探し求めてみたい』
門の外
従者「お待ちください!!」
皇子は数人の家来を従えて旅に出ていく
船に乗り元の国(中国)に渡っていく
いくつもの山寺を渡り歩く
禅道場での坐禅修行
春夏秋冬..季節はめぐり、ただその中で独り坐り続ける皇子
雨の日も雪の日も、風に花びらが散りゆく日も・・・
難行苦行が続いていく
そして
ある日・・・突然の大悟!!
母国にて仏陀の正法を伝える決意をする
寺の石段の頂上にある山門の前で、老師より一冊の書物を受け取る皇子
<表紙に宝珠を抱いた龍がまさにいま天に昇るかのような絵が描かれている>
山寺を後にする後醍醐帝の皇子
従者と共に船に乗り帰国の途につく
途中、嵐に遭い船が遭難しかかる
身を屈めながら受け取った書物を懐に抱き大切に守る皇子
すると船首に惚然と一人のテングが現われ、嵐の中で航路を指し示す
木の葉のように波に翻弄される船
・・・・・・・・・・・・
やがて嵐はおさまり無事に日本の港にたどり着く
すでにテングの姿はない
日本の街道を行く皇子一行
どこからともなく聞こえる声
『遠江(とうとうみ)の国にて灯を伝え待つ』
『とうとうみ?』
・・・・・・・・・・・・
「Aさん」
・・・・・・・・・・・・
「Aさん!!」
はっとして目を醒ます
シャンタンと志織が笑ってAの寝顔を覗きこんでいる
A「やあ・・・」
石の上で上体を起こす
まだ夢の余韻が覚めやらぬまま、ぼんやりと二人を見つめた
あいかわらず静かな気配のシャンタンと、少し丸みを帯びて女性らしさが増した詩織がいた
あれから一年が経っていた
天川のほとり
玉砂利に坐るシャンタン、志織、A
志織「元気だった?」
「あぁ、それにしても翻訳にずいぶん時間がかかったね。ダルマージも元気かな?」
シャンタン「彼は今年の初めに予告どおりこの世を去ったよ」
「え?・・・・!!」
「我々にとってはこれがダルマージの遺品さ」
ぼろぼろになった古文書と翻訳が書かれたらしいノートを取り出す。
「そうか・・・・亡くなったのか」
志織「墓石には彼の指示により『Never born,Never died.(決して生まれたことも死んだこともない)と刻まれたのよ」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・
シャンタンは翻訳ノートをパラパラとめくりながら、
「Aさんは新約聖書を読んだことがある?」
「え?聖書?・・・旅先のホテルに置いてあったものを2~3度。でも真剣に読んだことはないかな」
「新約聖書はマタイ伝、マルコ伝、ルカ伝、ヨハネ伝、といってキリストの4人の弟子がキリストのそばにいて見聞きした話しが中心なんだけど、ダルマージから受け取った『鍵』は、そこには含まれなかった弟子のひとりトマス伝の一部だったんだ」
「トマス?!・・・あの『疑り深きトマス』と言われた・・・?」
「そう。弟子達の多くは農夫や漁夫達でとても無垢な心を持っていたようだけど、トマスはその中にあって比較的インテリで、しかしその分キリストの言葉を鵜呑みにすることはなかったと言われている」
志織「でもだからこそ迷信的な表現を排除して自分が納得した事実だけを伝えているのね。その態度がむしろ現代の私達には信頼できる」
「で、どんなことが書かれていたの」
「教会の存在や、神に祈る行為までも否定するようなキリストの言葉が書かれていた
人間の行為のほとんどは自我から生じていて、たとえそれが美しく見えても何ら徳にはならないという事
おそらくこのような言葉がキリスト教会設立の都合に合わずトマス伝は聖書から抹殺されたんだろうね。
これを暗号にせざるを得なかったことも理解できるよ」
「それが鍵につながるの?」
「その中に一部、あきらかに特別扱いのように書かれた箇所があるんだよ・・・あっここだ
弟子達、イエスに言う
『安らぎはいつ来るのでしょう?天の王国はいつやってくるのでしょう?』
イエス彼等に言う
『あなた方の期待するものはすでに来ている
明日はもはや存在しない
が、あなた方はそれを知らない』」
シャンタン「『あなた方の期待するものはすでに来ている』、これは『時間』についてのイエスの教えなんだ」
「時間について?」
「そう、彼は『時間』や『明日』など存在していないと言っている
過去も未来も頭の中にあるだけで、現実はいつも『いまここ』に存在する
しかもすでに待ち望んだ世界はここに来ている
しかし我々はそれを認めないと・・・」
志織は天川のせせらぎを手のひらでせき止めながら、悪戯っぽく笑った
「私達は時間の中で生きているから、明日になれば明日になればって言うのよね
たくさんの希望や欲望を満たす為には時間という概念が必要なのよ
だから『今満たされている』なんて言われてもね・・・」
シャンタン「今この瞬間を100%幸せとは感じないので、もっと幸せになるには時間が必要だと思うんだね
だから神の王国に『今』すぐ入れと言われても困惑してしまう
こんな罪深い自分が、こんな未熟な自分が神の仲間入りをする資格があるわけがない
だからもっと自分が成長するためにも時間が必要というわけだね」
A「そうか、何となくわかるなぁ
先延ばししたほうが気が楽だし・・・
もしかしたらそうやって人は何千年も延期しているのかな」
志織「でも神の王国はいつも『いまここ』にあるのよね、今までも、今も、これからも
それを100%理解して徹底した時、存在次元が変わるんじゃないかしら」
シャンタン、ノートを見ながら
「そしてこう続けている
イエス言う
『汝自身を愛しなさい』」
志織「自分を愛せなければ人を愛することはできない」
シャンタン「さらに『汝の敵を愛しなさい』」
志織「これは他の福音書にもでてくる有名な言葉ね」
シャンタン「トマス伝はそのことを詳しく述べている
我々の心を幸せにさせない代表的原因に他者に対する『恨みつらみ』があるんだ
相手が大切な人であればあるほど、その感情を持ちやすい
たとえば、両親とか妻とか夫とか・・・
正直に自分を見れば誰もが心の底にその感情を持っているのがわかるはずだよ
それを解決するために相手を責めてみても、無視してみても事態は解決しないし、心も癒されない」
志織「わかっちゃいるんだけど相手を責めちゃうわよね
相手がいかに間違っていたかを気づかせて、相手に罪悪感を与えて反省させれば自分の気持ちが楽になるような気がしてしまう」
シャンタン「でもそれはうまくいったためしがないんだ
そこでイエスのやり方
『汝の敵を愛しなさい』
自分に苦しみを与えたその人に自分の方から近づいていくんだ
そしてその人があなたの愛やエネルギーや援助を受け取れる状態を作ってあげる
簡単に言えば愛して大切にしてあげるんだ
その結果、奇蹟が起きる
いつのまにか、相手に対する恨みつらみが消えているからね
でもそれをするにはまず『汝自身を愛しなさい』
自分を愛して癒さなければならない
まず自分を愛し、次に敵を愛する」
A「難しそうだなあ」
シャンタン「ああ、でもやりがいはあるはずだよ
たとえ相手が受け取らなくても、その気持ちを持ち続けるんだ
するとある時、大きな幸せ感に包まれる瞬間がやってくる
それは天からの恩恵で、それこそが「癒しの波動」といわれている力だよ
その結果、自分の心が満たされるので、自分が幸せになる為に必要だと思っていた時間がいらなくなる
時間を超えて 『今』に帰ってくる事ができるわけだ」
そうか・・・悟るためには欲望をなくせと言うけれど、欲望って未来に向かう力だ
今に十分満足していれば、欲望を持つ余地はない
自分を律して欲望を消滅させるのではなく、幸福感を今手にする事がその道に繋がるのか・・・
そのために必要なのは「愛」なんだ
なんとなくわかってきたぞ・・・
志織「あれさえ手に入れば、これさえ手に入ればと期待して、いつか、いつかと言っていた生き方が変わる
外側のものをいくら集めても内側の空虚感は埋まらないもの・・・」
シャンタン「『いつかどこかで』なんて存在していないよ
現実はいつも『いまここ』にあるのだから」
そうだ、あの時もそれを感じたっけ
過去や未来は頭の中にあるだけで、本当はいつも「今」しかないし、僕らはいつも「今」の中に存在しているんだって・・・
セミナーでも受講生の人たちに、それだけは伝え続けていた
「『時間を超える』、この鍵もとても高度だと思うよ
やっぱり『7つの鍵』は上から順番に見つかっていると思う
これらを自由に使えるための段階も、きっと用意されているはずなんだ」
志織「ねぇ、温泉に入ってから食事っていうコースはどう?」
「いいねえ」
シャンタンも笑って頷いた
天の川温泉
休憩の為の大広間
湯上がりのシャンタンとA
「Aさんにぜひ会いたかったのは3つ目の鍵のこともあったんだよ。ダルマージの話しではあなたがキーマンということだから」
あの日、インドでその話を聞いたときも実感が湧かなかったが、考えれば考えるほど荒唐無稽な話で、それを予兆させるような出来事もいっさいなかった。
「何かの間違いだと思うけど・・・」
志織が濡れた髪をタオルで巻いたまま出てくる
一年前より女性らしく見えるのは恋でもしているのか
そもそもこの二人は恋人同士なのかな
そんなことは考えたこともなかった
いくら鍵のことがあるからって、2人きりでここまで来るなんて、やっぱりただの関係じゃないよな
志織「天河の温泉は最高ね。ねぇシャンタン今思いだしたんだけど、ダルマージが日本に贈った最後のメッセージの話はした?」
「いや、まだだった・・・・去年の暮れの声明なんだ。
ダルマージは、アメリカ支配が創り出した欲望と暴力から人類を解放するのは東洋と西洋が出会う日本の役目だと言っている。そのために必要なのは禅革命だと」
「禅革命?」
志織「皮肉にも日本は世界中で最も社会通念や常識にがんじがらめになっている国で、それが世界をリードする新人間(ニューマン)が生まれる妨げになっているって。
その為には禅が持つパワーを使ってカラを打ち破ることだそうよ」
「本当にそんなことを言っているの?禅も『鍵』のひとつだってこと?」
シャンタン「そしてその声明文の最後に禅の『円相』(太い筆でくるっと円を書いたもの)が書かれていて、そこに『十・十・三』と墨で書かれていた」
志織「彼の声明文としては異例なことで、弟子達も何のことかわからないのよ」
シャンタン「もしかしたらそれが次の鍵のヒントではという人もいるのだけど・・」
天河食堂
窓の外は夕暮れの村景色が広がっている
遊び終えた子供たちの甲高い声が、赤く染まった畑道にこだましている
一番奥のテーブルにあまご(川魚)の甘露煮が配膳された
シャンタン「熊野で我々を見張っていた者達の正体がわかったんだよ」
「本当に?」
志織「ある新興カルト教団だったの。その中の一人が事件を起こしてテレビに顔写真が出てね。いつもシャンタンをつけていたその男だったのよ」
シャンタン「すぐに教団本部に抗議に行ったよ。彼等はしらばっくれていたけど、それ以来尾行がなくなったよ」
志織「おそらくどこかで鍵の情報を知って、自分達の教義に取り入れようとしたのね」
シャンタン「今、日本にはおかしな連中や山師が多くて、本格的に精神のワークをしようとすると世間から誤解されてやりにくい」
志織「これも本物が残っていく試練かもね」
セミナーという存在も、常になにかの宗教ではないかと疑われ続けてきた
本来人間にとって一番大切なことを学ぶ機会が一番いかがわしい物になってしまったとは、なんという皮肉だろう
食事後
神社に向かって薄暗くなった道を歩いている
枝いっぱいに葉をつけた大銀杏の木が、何軒も先の民家の向こうにそびえているのが見える
A「そう言えば例のトマス伝は650年前のものだったんでしょ?」
シャンタン「いや、1800年以上経っているよ」
「でもあのときダルマージが650年の時空を超えて行けって・・・」
志織「いつ?」
「みんなで彼から鍵をもらった時さ」
「そんなこと聞いてないわよ」
シャンタン「いつ言ったの?」
「!!!」
あの時のダルマージの顔を思い出す。
「サファール・アルチャン!」
「行きなさい、650年の時空を超えて」
『あれは僕だけに聞こえたのか?!心に直接??』
すっかり夕闇に包まれた神殿
神前の供え物を下げる撤饌(てっせん)の儀が行われている
「ひーふーみーよーいーむーなーやー こーとーもーちーりーらーねー・・・」
ひふみ祝詞の音霊は、生命の波動そのものを振動させ、永遠なるものと人間とを繋ぐ力を持つという
わずか一年前だというのに、自分も白装束をつけ、この神社でご奉公していた事が夢のように思い出された
撤饌を終えた神主を見送り、まだ真新しいヒノキの香りが漂う能舞台に腰をかけ、ぼんやりと神殿に見入る3人
古文書を盗み見た夜、不思議な光が現れた磐座も、今は何事もなかったかのように静まりかえっている
ここでボブはあの体験をしたのか・・・
『ひとつ目は衣替えのすぐ後に南の島の兄弟が川下で神々の舞を踊る夜です』
『ふたつ目は龍宮の歌人と海を渡り聖天祭りで流星の主にお会いなさい』
志織「やっぱりダルマージが書いた、禅の円相に『十・十・三』って気になるのよね」
シャンタン「これは8年後の平成10年10月3日の事ではないかと思うんだが・・・」
志織「その時に、またここに光が現われるのかしら」
A「ずいぶん先の話しだね」
志織「じゅう・じゅう・さん・・・か・・・」
・・・・・
志織「・・・テン・テン・スリー・・・・ひふみのヤマト言葉では・・・とう・とう・み・・・」
・・・・・・・・・・・
A「!!」
A「今、何って言った?」
志織「え?じゅう・じゅう・さん」
A「その後だよ」
志織「とう・とう・み」
「!!!」
『禅、そして、とうとうみ』
昼間、南朝の御所跡で見た夢を思い出す
...........
皇子の禅修行そして
『遠江(とうとうみ)の国にて灯を伝え待つ』
『とうとうみ?』
・・・・・・・・・・・・
『まさか?』
何かに取りつかれたように急に石段を駆け下り、明りのついた社務所へ転がるように駆けこんだ
「こんばんわ」
社務所を閉めるために後片付けをしていた巫女が、驚いた顔で迎えた
「あらAさん、なんと、お久しぶり!」
「ねえ、あそこに南朝の御所跡があるけど、後醍醐天皇が亡くなったのは何年前?」
「どうしたのいきなり?・・・(Aがあまりに真剣な顔をしているのを見て)ちょっと待ってね調べてみるから」
巫女は棚の上から何やらぶ厚い本を取り出すと、パラパラとページをめくった
そこにシャンタン達がやってくる
志織「どうしたのよ、急に行っちゃうからびっくりするじゃない」
巫女「え~と今が1990年だから、約650年前ね」
「650年!!・・・・・やっぱりそうか。これはもしかすると・・・」
シャンタン「どうしたんだい?」
「もしかしたら、次の鍵が見つかるかもしれない!」
シャンタン・志織「え?!」
「650年とは新しい鍵の事だったんだ」
シャンタン・志織「???」
「遠江(とおとうみ)とは浜名湖一帯の遠州地方のことだよね」
その昔、京の都を基点として、近い湖の琵琶湖周辺を近江、遠い湖の浜名湖周辺を遠江と呼んだ
手帳をめくりながら
「僕は子供のころ浜松にいてね・・・加藤、こいつだ!」
「ちょっと電話借りるね」
「もしもし・・・あっ加藤?」
少し時間経過
「それでね、遠州地方に南朝ゆかりの禅寺か史跡はなかったかと思って」
加藤「あぁ、それなら有名な奥山の方広寺だら」
「方広寺?」
「うん、たしか後醍醐天皇の皇子が建立したって聞いたな」
「それだ!!」
「うわ!びっくりした。どうした?」
「いや、何でもない。行けば場所はわかるかな。俺子供の頃しかいなかったから・・・」
「静岡県でも1、2を争う大きな寺だで、誰に聞いてもすぐわかるら」
「ありがとう」
電話を切って社務所の柱時計を見上げた
「この時間じゃ、もうバスはないか」
志織「あら、私達は車で来てるけど?」
シャンタン「どうやらダルマージが言ったとうり、あなたが次の鍵を見つけてくれたようだね」
「いや、まだ決まったわけじゃ・・・でも何か胸騒ぎがするんだ」
志織「面白そうね。そうと決まったら今から行こうよ、そのほうこうじって所」
深夜、車を飛ばす3人。
運転するシャンタンの隣で、詩織がやけに楽しげにはしゃいでいる。
時折シャンタンを見つめる視線が、何年も一緒に暮らす夫婦のようだ。
この二人の関係はいったいどんなだろう。
恋人同士だろうか・・・それにしては年齢の差があるようにも見えるし・・・
後ろのシートから声をかけた
「二人は付き合っているの?」
「ああ、僕たちはみんな恋人同士さ」
「みんなって?」
「違う言い方をすれば誰一人誰のものでもないんだよ」
志織「あら?Aさんのことも恋人だと思っているけど・・・」
「え?!」
「いやだ、赤くなってる」
シャンタン「僕もAさんを恋人だと思っているよ」
「え?!!」
二人は顔を見合わせて大きな声で笑った
車は名古屋インターを過ぎ、東名高速道路に入っていた
南朝の巻 完
方広寺の巻へ





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