一匹の猫
引っ越してからの僕は、毎日のように早起きして、懐かしい町並みを歩いていました。
まだ霧がかったかのような朝もやの中を、雀たちだけが唄を歌っていました。
なにもかも、あのころのままです。
ただひとつの違いは、町並みがすべて小さく見えたことです。
まるでそのまま縮小したかのような感じでした。
きっと自分の身体だけが大きく成長したのでしょう。
そこに暮らしだして半年もしたころでしょうか。
我が家に一匹の猫が訪れるようになりました。
飼い猫なのか、捨て猫なのか、餌を与えると喜んで食べました。
決して家の中には入ろうとはせず、庭の垣根越しに現れては、どこへともなく去っていく毎日でした。
あるとき、その猫の異変に気づきました。
どうやら妊娠しているようなのです。
お腹が大きくなっているのが、遠目からもはっきりと見て取れました。