2008年01月31日

小さな碑

「時間もなければ空間もない。この宇宙は全部自分という存在の表れだから」



「Aさんは何故そう思ったのですか」

玄考さんは、僧衣の袖をちょっと持ち上げるような姿勢でぽつりと言いました。

目の前の大銀杏の木は弘法大師が植えたという伝説があり、そのすぐ横には何やら古ぼけた小さな碑がひっそりと佇んでいます。



吉野の山々に囲まれた村全体が静寂に包まれていました。

時折さえずる小鳥の声がとても大きく響いてきます。



玄考さんが話に興味を持ってくれたことが嬉しくて、いつも話したくて仕方のないことを、ここぞとばかりに話し始めました。


「万物は一つなるものからできていて、僕ら一人一人の中心には、名前を付けようのない偉大な存在が鎮座していると思うんだ」


これぞ真実と思うことを、いろんな表現でしゃべり続けました。

伝統仏教を学ぶ若者が、どのような反応を見せるのか楽しみでした。



ひととおりAの演説が終わると、玄考さんは大木の隣にひっそりとたたずむ小さな碑の前で膝を折りました。

「Aさん、この文字知ってはります?」


手のひらを二つ並べたくらいの小さな石碑には、何やら梵字が書かれています。


「いや、知りません」



「これは阿字観といって、お大師様(空海)が宇宙を感得されたときに瞑想の対象としていた梵字なんです」






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  小さな碑



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