2008年02月05日

死の恐怖

人生にはたくさんの選択肢があるというのに、なぜこの若者は僧侶の道を選んだんだろうと思いました。

そういう僕も、ひょんなきっかけとは言え、その時は神官の白衣を着ているのですから、人の事がどうこうというわけではありません。

「玄考さんは、なぜ修業しているの?」

唐突に聞いてみました。


玄考さんはちょっとびっくりした顔をしましたが、自分のことを話せる機会ができたことを喜んでいるような感じで話し始めました。


「家がお寺さんだったわけじゃないんです。

僕は子供のころから・・・・そう5歳くらいの頃から死ぬということが怖くて怖くて・・・

夜眠る時も、このまま目が覚めないんじゃないかって思って、なかなか寝付けないこともありました。

だんだんとその感覚は薄れていくんですが、それでも死という謎は残されたままだったんです。

それがですね、19歳のある時、変な出来事が起きたんです。

夕暮のことだったんですが、窓辺で本を読んでいてウトウトし始めたんですね。

そしたら次の瞬間、自分の背後に自分が立っているんですよ。

ウトウトしている自分の体が目の前にあって、僕はすごくクリアーな意識のまま、そんな自分を眺めているんです。

体から抜けてしまった驚きよりも、その時に感じたのは、またこの重たい身体に戻って生活していくのは難儀だなって。

そんなことを考えていたら、目の前の自分は、今までの自分の過去のすべてだって思いました。

それは実体というよりは、記憶の束みたいなものだなって」



「わかるよ、その感覚。自分だと思っているのは思い込みの束だよね」

思わず話に割って入ってしまいましたが、玄考さんはちょっと微笑んでうなずきながら話を続けました






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